第12話 滝

ある夏の日のお稽古。

床に掛けられた時「滝」の御軸おじくを拝見し、滝が見てみたいと思う様になった。


それから数ヶ月、そう遠くない場所に滝がある事を知り車を走らせた。


林道に車を駐め、湧水で濡れた階段を降りる。

徐々に迫力を増す水の音に誘われる様に僕は滝の前に立った。

少し色づいた木々の真ん中から凄い勢いで落下する水。

舞い踊る煌めく水しぶき。


「自然てすごい!」


滝の正面の1番大きい岩に座り、ギターを弾いた。


「僕はいったいこれから何処に向かって生きていけばいいんだろ」

ギターにそんな歌詞をのせてみた。


「明日に向かうのじゃよ。」

誰かの声にハッとなった。


声をする方を見ると知らない爺さんがニコッとしながら滝を眺めている。

爺さんが続ける。


「滝を見ながらギターとは中々ジャングルじゃのぉ」


ジャングル?


なんだこの爺さんは。

とりあえず挨拶を交わす。

「どーも、こんにちは!」


「いいフーディーを着ておる。

わしはこのすぐ近くに住んどるもんじゃ。

どうじゃ、ちょっと家によってくか。」


爺さんは手でグラスを傾ける仕草をして笑った。


「よろこんで!」


ヤケクソだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る