第9話 恐怖からの解放

「よかった、無事だったんだ。」


「お前も無事でよかったよ。」


「それよりも、ここから抜け出す方法を何か知らないのか?もし知らないならすぐにでも考えないと!」


僕はこの世界から脱出するための方法を龍矢に尋ねる。


「そうだ、そのことに関して思い出したことがあるんだ。ここから出る方法を思いだしたんだよ。とりあえず、中に入れ。外は目立つもしれないからな。」


「分かった、続きは中ではなそう。すぐにそっちに行くよ。」


僕は平屋の玄関へと向かい、横開きのドアをスライドする。すると、そこには僕のことを龍矢が出迎えてくれると思っていた。しかし、僕の目の前に現れたのは着物を着たおかっぱ頭の女の子の後ろ姿であった。


そう、平屋の中には龍矢ではなく、隠探さんがいたのだ。体は前を向いたまま、首だけがぐりんと急に回転し、瞳孔の開ききった目がこちらを見据えている。


『二人目もお~し~まい』


「う、うわぁ~~。」


僕はただ叫ぶとしかできず、泣き叫びながらみっともなく逃げ出した。ここらは田畑のため、あたりの見晴らしが良すぎる。


生き物としての本能なのか僕は自然と見晴らしが悪くなる森へと向かっていた。月光も届かない森の中で足元がろくに見えない中ひたすら走り続ける。木の根に何回も足を取られ転倒しても走ることを止めなかった。




僕はもう心が折れてしまっていた。この世界から帰る方法を知っている唯一の人間である龍矢が隠捜さんの餌食になってしまったのだ。もう、どうやっても帰ることができない。


父さんや母さんに二度と会えなくなると理解してしまい、涙がどんどんあふれ出る。


「ひぐっ、ひぐっ。父さん、母さん会いたいよ。カクレユメなんかしなければよかった。こんな事さえしなければ今頃は父さんと母さんの三人で朝ご飯を食べているはずだったのに。


ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。ダメな息子でごめんなさい。親孝行できないでごめんなさい。父さんたちよりも早くいなくなってごめんなさい。」


僕はよく調べないでカクレユメなんかに手を出したことで両親に迷惑をかけることに罪悪感で胸がいっぱいだった。その時、この森一体に悲鳴が響き渡る。


「いや~~っ!」


この声は真矢の声だ。どうやら、真矢も隠探さんの餌食になってしまったのだろう。もう、残っているのは僕一人だ。直に僕の元にも隠探さんがやってくるだろう。


「はぁ、最後に会話したのってどんな話だったかな?こんなことなら父さんや母さんとたくさん会話をしておくべきだったな。まさか、こんなにも急に会えなくなる日が来るなんて。


僕がいなくなって父さん達、悲しむかな。悲しんでくれるのは嬉しいけど、悲しんで欲しくはないな。僕はなんて馬鹿なことをしたんだろう。」


考えるたびにいくつもの後悔が僕の頭の中を支配する。そんな僕もいよいよ最期なのだろう。徐々にではあるが先ほどから死神の足音が大きくなっている。もう、逃げる気力も体力も残っていない。


僕の目の前に隠探さんの気配がする。僕はじっと目をつむり、その時を待つ。目を見てしまえば僕は僕でいられない気がするからだ。せめて最期くらい、なんの恐怖もなく、穏やかに逝きたい。


願わくば僕たちのような犠牲者がこれ以上でないことを望む。そして、最愛の両親には僕がいなくなっても傷つかないでほしい。悲しまないでほしい。僕が想像する以上に残された人間はつらいはずだから。そこで、僕の記憶は途絶えるのであった。


『み~つけた。これでずっと、ず~っと、お友達だね。』

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