ワードマスター

日野球磨

序章 【期待の新入生】

プロローグ

言ノ葉


 言葉とは、意思疎通の手段でしかない。


 それは音を伝えるための生体器官から発される音の信号。

 そして、その音たちに俺たちは名前を付けて、言葉というくくりの中に利用している。


 名称、動詞、形容、概念。


 言葉とは実に多くの意味を内包し、それを知らずに自分たちは彼らを使っている。


 しかしだ。そんな言葉たちに、現実世界を捻じ曲げる力があったらどうだろうか。


 音の信号でしかない言葉たちには、確かに人を動かす力が存在する。

 たった一言が人を傷つけ、たった一言が人を駆り立て、たった一言が人を救い、たった一言が人を殺す。


 何気ない一言が、思いもよらない事態を引き起こした、なんてよく聞く話だ。


 しかし、この物語はそんな規模のものではない。


 言霊という言葉がある。


 言葉が、力を持つ。ただ発した言葉が、世界を捻じ曲げる――






 ――これは、とある少年の物語。


 言霊を扱うための学園、言ノ葉学園。


 物理法則すらも捻じ曲げる超常の力の中で、少年は学ぶ。


 意志の力の象徴である言霊が渦巻く学園の中で、少年は成長する。


 そして、少年は立ち向かう。言葉の中に潜む謎へと――




 day.4/5[第一言ノ葉学園:正門前]


「……なんか、すっげぇ緊張するな」

「どする? 張り手でもしようか、ジン」

「気合入れってか、愛衣。だが、お前が俺の背中を叩いたところで、お前の方が手を痛めるんじゃないか……?」

「なんだと、随分な言いぐさじゃん。そんな奴にはこうしてやる! てやーッ!!」

「キックはダメだろキックは!!」


 少年はこの日、超常の学園へと入学した。


 

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