新たな相談

「俺はまだ、あいつのこと信用してねぇからな……」


 屋上から校舎に戻りながら、天馬先輩がぼやく。


「私は、信用しますよ」

「お前はそれでいい。どっちも信用しちまったら、何かあった時の落胆がひどくなる。俺が疑う側をやるからお前はそのまま、自分の信じる方を進め」


 両手を頭の方にやりながら、先輩は窓から空を見上げる。


「せっかく学校まで来たんだ。ポストの中を確認して帰るか」

「そうですね」


 話しながら、再び一年生の教室の前を通りかかった。

 さっき、久我くんが女子たちと話をしていた教室。


「あれ……」


 教室には、誰もいなかった。けれど、黒猫が一匹見えた気がした。


「どうかしたのか?」


 立ち止まった私に気付いて、天馬先輩も戻ってきて教室の中をのぞきこむ。


「さっき、黒猫が見えた気がして……」

『仲間なのだ!?』


 かばんから、ひょこっと顔を出すトシローさん。


『仲間は見えないのだ……』

「気のせいだったかもしれません、すみません」


 私の言葉に、天馬先輩が笑う。


「そういう日もあるだろうよ」

「どうする? もしオバケだったら?」

「「ぎゃああああああああっ」」


 後ろから声がして、私と天馬先輩は尻もちをつく。


「いやー、おどかしてしまってすまない。面白かったぁ」


 お腹を抱えて笑っているのは、マサキさんです。


「マサキ、てめぇ!」

「うん? 先輩、僕のこと、マサキって呼んだ?」


 きょとんとした顔でマサキさんが先輩を見つめる。


「え、あれ?」


 先輩自身も驚いている。


「あれー、今僕、魔法は振りまいてないはずなんだけどな……」

「うるせぇ!」

「いいよアキト先輩、マサキって呼んでくれて」

「急に下の名前で呼ぶな! 鳥肌が立っただろ!!!」

「えー、ショックだなぁ……」


 そう言いながら、マサキさんは私を見た。


「猫村さんのことも、よかったら……ミスズって呼んでいいかな?」

「え……。もちろん、です」

「やったぁ」


 マサキさんはとても嬉しそうに笑った。

 いつもの自称ファンクラブの人たちに囲まれている時とは違う。

 クールな笑い方ではない、本当に幸せそうな顔。その途端。


 パンパカパーン!!!!


 突然場違いな効果音が響いた。

 音は、明らかに私が手に持っていた再試験書類から出た。


「なんだ!?」


 私が書類を広げてみると一つ、さっきまでと違っている場所があった。


 一,誰かを幸せにすること(これは多ければ多いほどいい)

 二,魔法をたくさん修得し、使いこなすこと。(上に同じ)

 三,魔法石ととんがり帽子を盗んだ相手を探すこと


 そう書かれていた書類の、一の部分に大きな赤丸がついていたのだ。


「「……」」


 私と天馬先輩は顔を見合わせ、そして今度は二人でマサキさんを見た。


「……なんだよ」


 マサキさんが視線をそらす。


「嬉しかったんですね」

「嬉しかったんだな」

『マサキ、友達少ないのだ?』

『仕方がないから、あたくしたちも友達になってさしあげましょう』


「別にっ、友達は多いし! ファンクラブあるし!」

『何言うてんねん。ファンクラブの子たち、苦手やから屋上に逃げてるくせに』


 クロスケの一言で、マサキさんは走り出す。


「マサキさん、マサキさんはもう、大事な友達です!!!!」


 その声は届いたかどうかは分かりません。

 でも、再試験の書類についた丸が二重丸になったのできっと伝わったはずです。


♦♦


「問題は、とんがり帽子と魔法石の行方ですね」

「ああ、いくらマサキが学校で魔法を振りまいても、この学校の生徒じゃなければ、意味がないからな……」


 ポストに入っている紙を回収し、私たちは家路を急いでいた。


「ちなみに、今日入っていた相談って、何なんだ?」


 天馬先輩がのぞきこんでくる。ちょっとだけ、どきっとしてしまいました。


「あ、これは楽しそうです」


 今日ポストに入っていた相談は一つ。


「好きな人に渡す誕生日プレゼントねぇ……。そんなの、直接本人に聞けば早いんじゃねーの」

「先輩、それができたら女子みんな、苦労してません」


 相談内容は、好きな人の誕生日が今月あるから、誕生日プレゼントを一緒に選んでほしい、という相談。


「明日、スーパーの前に集合です」

「あのスーパー、小さい雑貨屋しかねぇぞ?」


 私たちが話している間、ペガさんとトシローさんは鼻歌を歌っています。

 どうやら、お買い物について行くのが楽しみなようです。


「近場しか行きにくいじゃないですか」


 私たちには、ホウキがありますが……あ!


「先輩先輩! いいこと思いつきました!」

「あん?」

「ホウキに乗せてあげて、大型ショッピングモールに連れて行ってあげるんですよ」

「ショッピングモールに連れて行ってやるのは賛成だ。ただ、ホウキじゃなくて、瞬間移動魔法の方がいいな」


 他の人に見られるのはよくねぇ、と先輩。

 確かに、ホウキにもう一人、人を乗せたら重くなって、スピードが落ちそうです。

 そうなると、人に見つかりやすくなるかもしれませんね。


「魔法の修得の見せどころじゃねぇか、待ち合わせ場所まではホウキで行って、そこから瞬間移動魔法を使用する。もしかしたら、それで二番も丸がつくかもしれねぇ」

「確かに! 先輩、かしこいです!」

「……なんか、ほめられてるのか、バカにされてるのか分からねぇ」


 そうぼやく先輩を尻目に、かけだす。

 なんとしてでもこの相談を成功させて、再試験合格に近づけましょう!

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