赤い着物の女性

カーテン越しの陽の光が彼女の瞼に眩しく差し込んだ。朝が来た。


「なんだ、夢か。やけにリアルだったなぁ」大きく伸びをし、まだ眠い目を擦りながらそんな事を彼女は思った。


さあ、移動教室だ。彼女はサッと起き上がり、すばやく着替えて部屋の外に出た。急いで朝食を取り玄関に。

「行ってきま〜す」学校の集合場所に向かった。



バスの中。周りは賑やかだ。持ってきた漫画を読む者、カラオケで今流行りの唄を歌う者、おしゃべりに花を咲かせる者。様々だ。みんな思い思いの事をしている。


「そろそろ最初の目的地、津雲城博物館に着きます。みんな、外に出る準備をするように」担任の先生の声。


バスが広い駐車場に入った。みんなバスから降り、整列する。津雲城資料館の入り口に来た。

「よろしくお願いします!」彼女たちは子供らしい元気な声でチケット売り場の人に挨拶する。担当ガイドさんにもだ。


津雲城は城の中が資料館になっていて、津雲藩の貴重な資料が保存されている。鎧兜、刀、槍、鏡、漆器、古文書、着物や打掛、小袖など、どれを取っても素晴らしい。彼女は目を輝かせて説明書きを読み、それらの宝物をじっくりと堪能する。


「鎖帷子?なんて読むのかな?」小学生の彼女には説明書きはちょっと難しい。ガイドさんの話をしっかりと聞いていた。物珍しいものをいくつか見て行くうちに、ガラスケースのコーナーの前に立ち止まった。そこには、古文書や水墨画などの片隅に一つの絵が飾られている。一際美しい女性の姿。緑の木々の中でこちらを見ている赤い着物の女性。彼女は驚いた。


「昨日の夢の赤い着物の人だ」説明書きには鶴姫と書かれている。

「鶴姫?」彼女はしばらくの間、じっとその絵の女性を見つめ、静かにその場を離れた。


資料館の鶴姫の絵が気になってはいたが、1日の日程をこなす内に彼女は次第に忘れていった。夜、昼間の疲れもあり、彼女は眠りに落ちていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る