ドワーフのビショップ

 と言っても、倒しきれてはいないんですけれどね。


 ジョオウタケのようなボスクラスの魔物は、生命力が強くて倒してもすぐに復活しちゃうそうです。

 また、同種の劣化版のようなモンスターも、各地の未踏破ダンジョンにはウジャウジャいるとか。


 冒険者職が廃れないわけです。


 昔は戦争や魔王襲撃などが頻発して、人々が毎日食べ物に困っていた時代もあったそうです。


 平和が一番ですね。

 

 ひと仕事終えたわたしたちは、冒険者の酒場で一服します。といっても、わたしは嗜みませんが。


 ミュラーさんとヘルトルディスさんは、冷たいエールでノドを潤しました。


 わたしは、枝豆をお茶で流し込みます。


「いやあ、今日は大漁だったな」


 ミュラーさんたちのアイテムボックスには、山盛りの装備品やら消費アイテムやらが圧縮されています。


「ああ、いたいた。おやっさん!」


 ミュラーさんが、一人の年老いたビショップに声をかけました。

 小柄ですが、ビショップという割に筋肉質です。

 見た感じ、ドワーフさんのようですね。

 たしかドワーフさんは、信仰心が高いと聞きます。彼も同類でしょう。



「よお、おやっさん。アイテムの鑑定をしてくれ」

「ほいきた。おや?」


 わたしの顔を見て、ドワーフビショップさんがヒゲをなでました。



「ああ。あなたは」



 この人、スケルトン食堂でお見かけしたおっさんではありませんか。 



「クリス、知り合い?」

「え、ええ。ちょっと、ですねぇ」


 お忍びで食堂巡りをしているのは、冒険者仲間にも秘密にしているのです。この場で秘密を知られたくありません。


「ホホホ、かたや司祭ビショップ。かたや修道僧モンク。同じ聖職者じゃろ? どこかで会っていても不思議ではあるまいて」

「それもそうね。では、鑑定をお願い」


 ヘルトさんが納得したところで、戦利品を鑑定してもらいます。


「ミュラーさん、ジョオウタケって、どうなっちゃうんですか?」

「そりゃあ、食うんだよ」


 アイテムを見てもらう間、例の魔物の素材をがどこへ出回るのかをミュラーさんに尋ねます。


「味がとても濃厚なんだってよ。グラタンにすると、ミルクより濃い味がするらしい」


 それは、おいしそうですね。


「でも、魔物ですよね? 食べても問題は?」

「ウルフとか、魔物の肉だって加工して売っているんだ。問題ないってよ」


 食料品のリストにも、ジョオウタケは載っているそうです。


「ミュラーさん、ジョオウタケの素材って、どこで食べられますか?」

「貴族の料理として、出されるそうだ」


 ですよねー。そんなにおいしいんですもんね。


 頭がキノコでいっぱいになりそうです。


 胞子を飛ばされて寄生されたのかも。これを除去するには、対処療法に限ります。


 今夜は、キノコ料理を食べて帰るしかありませんね!


「ほれ。こいつが一番高く売れるぞい」


 装備できる品は既存品と交換して、わたしたちが扱えない武具を売るそうです。わたしも、ヌンチャクを新調しました。


「ありがとよ。ほれ、これは手間賃だ」


 ビショップさんに、ミュラーさんが金貨を渡しました。


「では、わたしは教会に帰りますね」

「残念ね。ジュースの一杯くらい出すのに」


 ヘルトさんが、嬉しいことを言ってくださいます。

 ですが、いいのです。報酬まで分けてもらった上におごってもらったら、バチが当たりますからね。

 わたしはわたしで、楽しみもありますから。


 さて、どこかのレストランに入って、キノコ料理と行きましょう。


「モンクのお嬢さん」


 背後から、ビショップさんに呼び止められました。


「お前さん、変装の際はもっと工夫するがよいぞ」

「なにをおっしゃる? あの変装はカンペキでしたよ。どう見ても労働者風の――」

「あんな小綺麗な労働者がおるかい」


 指摘を食らって、わたしはハッとなります。


 よく考えたら、そうでしたね。


「ほっ、そうじゃ。例のスケルトンの店な」


 わたしは、身体がビクッとなりました……。

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