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深夜バイト中、ヒサシは社会人になったばかりのことを思い出す。


高校を卒業し運送会社に就職した。


初めは仕分け作業を担当し、ゆくゆくは配送ドライバーになるという会社の配慮があった、そんな夏。高校1年の弟が交通事故で死んだ。


弟は原付のバイクに乗り、二段階右折禁止の交差点に差し掛かる直前、右折レーンに車線変更するため左車線から右車線へ移るさなか、後続の自動車にぶつけられ運悪く死んだ。


弟に非はなく、加害者のスピードの出しすぎが起因した自動車運転過失致死として処理された。


ヒサシは会社の皆から同情された。


皮肉にも運送という車で仕事をする職種だったため、加害者への非難、弟やヒサシを含めたその家族へのサポートをして行きたいと会社が全面的にヒサシを援助しようと動き出そうとしていた。


しかし当の本人はそれほどのショックは見せず、弟が亡くなった翌日も普段通りに出勤してきたのだった。


会社はしばらく休んでいいという会社の指示に従わず、「給料欲しいんで」というヒサシに、会社の同僚は奇異の目を向け始めた。


ヒサシと弟は血の繋がった兄弟と言うだけで、絆というものは皆無だった。


それもこれも母親のゆがんだ愛情が原因で、ヒサシが小学6年の時に、「お兄ちゃんなんだから」といういつもの言葉に嫌気をさして家出をした。


あの一件以来、家族というのはヒサシにとって他人同然へと変わった。


そういった事情を知らないため、会社では冷たい兄として認識されつつあった。


そして会社を辞めるに決定的な一因となったのは、母がマスコミに対して放った言葉だった。


『私の唯一の生きがいの息子を奪った! アイツを呪い殺してやる!!』だった。


母にとって弟が全てだった。ヒサシはどうでもいい存在だった。


マスコミもその歪な愛情と、残された兄との確執に焦点を変えて記事を書きはじめた。


弟が意図的に事故を起こしたのではないかという記事まで出て、それを見た母親は完全に壊れた。


精神の病を発症した母親の存在と、二人の息子のうちの1人を失い、残った1人はショックも受けずに淡々と仕事を続けている歪な家族に嫌気をさして父親は自殺した。


いとも簡単にリタイアをやってのけた父親は面倒なことからさっさと手を引きたかったのだ。


流石のヒサシも会社に居づらくなり自ら退社を申し出た。


そんな昔話をヒサシは思い出していた。


コンビニで働き出してもう2年になるが薄い人間関係が逆に心地よかった。


オーナーは自分の事情を知っているが深く干渉もしてこず、残り物の廃棄を母親に食わせてやれといつも手渡してくれている。


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