4 ヒメツルなんちゃら

「ヒメツルソバだ」


 思わず言ってしまってから、しまったと思った。

 こんな男みたいなやつが、中々にマイナーな花の名前を知っているなんて、気持ち悪いに違いない。チューリップとタンポポしか知りません、が正答だった。失敗した。

 思わぬことに頭が真っ白になる。

 そんな私は、ユイの明るい声に、現実に引き戻された。


「よく知ってるね!すごーい!さてはユイ、お花博士だな?」


 スマホの画面を細い指で撫でながら、ヒメツル……なんだっけ?と尋ねてくる。


「笑わないの?」

「?どゆこと?」


 こてん、と首を傾げられて、私は言葉に詰まった。それを見て、ミオが慌てだす。


「えっ。ダジャレとか言った?今。ごめん、気づかなかったの。もう一回!もう一回チャンスちょーだい!」

「ダジャレ……」


 あまりにも違う。何も突っ込めないくらい、掠ってもいない。


「笑わないから!あっ、違う。笑うから!ね、笑うよー!」


 笑い声準備バッチリだから!と、必死になっているミオが可愛くて、思わず笑ってしまうと、怪訝そうに目を合わせられた。


「何を笑ってんの」

「いや、ごめんごめん」


 笑いを堪えながら、口を開く。


「こんな男みたいなヤツがさ、花の名前とか知ってるのキモいじゃん?だから、笑わないのって聞いたんだけど」


 ダジャレって、笑うと、ミオはちょっと顔を赤くして、怒ったように口を膨らませた。


「それならそう言ってよ!余計な心配したじゃん」

「ごめんって」


 ツボに入ってしまい、笑い続ける私を見て、ミオはむくれた顔のまま言った。


「ユイは可愛いし。気にしなくていいと思う」

「どこ見て可愛いとか言ってんの?」


 さっきは照れて何も言えなかったが、今の私は違う。言い返せる。虚しくならないといえば嘘になるけど、テンプレの社交辞令なんかに絆されていては、馬鹿らしい。

 どうだ、とミオを見ると、間髪を容れず、答えが返ってきた。

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