3話 死霊術師《ネクロマンサー》の館

 ここは帝都アルデオ近郊の森林地帯。

 昔から今でもここは葬送の地として有名で森の入口には新しく作られた墓地が並んでいる

 だが、そんな曰く付きの森の奥深くに入る人間は数少ない

 葬送の地とされているので悪い噂はいつもの話。

 昔、非魔血への大量虐殺ジェノサイドが起きた場所とか高貴な魔血の王族が誅殺されたとか――確かめようのない噂ばかりだ

 だけど、その噂は半分本当。何故ならこの森に人を入れささない為彼らが撒いた嘘だから

 そして本当の理由はその風評よりも恐ろしい事実だったから――

 暗殺魔法士ザガロ・ディアルグレイは昼であるのに日光さえも通さない森の中をゆっくりと歩んでいく

 その先はまるでけもの道みたいに鬱蒼としており一見すると方角がわからなくなるほどの迷い道

 だけど彼は迷うことなくその道をすすんでいる

 この森にはある結界魔法がかけてある。

 同じ血族にしか見えない目印。彼にしか見えないその赤黒い光を追って彼は歩んでいく

 そして空間は一気に開ける。

 そこにどっしりと建っていたのは古びた洋館だった。

 死霊術師ネクロマンサーの館――他の魔血に言わせたらそんな名前になるだろうか。

 ここはかつて魔血の派閥争いに敗れ、帝都を追われた希少属性魔血レアブラッド死の血の魔血がひっそりと暮らす場所だった。

「ザガロ様お帰りなさいませ」

 館に入るや否や黒いローブを着た背の曲がった小さな人間が影のように現れる

 否、正しくは人間ではなく死の血の魔血に使役された死霊であった。

「おじい様いる?」

 ザガロは驚くことなく死霊に話しかける

「ええ、あなたの帰りをお待ちしてましたよ」

 その一言を聞いてザガロはなにもいわないまま館のエントランスを歩いていく

 そして大広間のドアをノックするとその扉は勝手にゆっくりと開いた

「おじい様。お久しぶりです」

 ザガロはその瞬間、従順にその場で一礼する。

 大広間には巨大な逆三角形の赤黒い魔法陣。

 その横には沢山の骸骨兵スケルトンが異並び彼らに平服していた。

「おお、ザガロ·····よくぞ参った」

 その奥の玉座に座る老人。死の血の『宗主』にして死霊術師ネクロマンサーの長、ザガロの祖父でもあるディル・ディアルグレイだった。

「しばらくの間、帝都での任務に忙殺されてなかなか実家に帰れませんでした。申し訳ございません」

 ザガロのその言葉を聞いてディルは優しく笑った。

「良い良い、元気にしてるならそれでよい」

 ディルはそういった次の瞬間、鋭い金色の目でザガロを見た。

「お前、本来の任務は忘れてはおらぬだろうな?」

「はい」

 そう言うとザガロは平服したように頭を下げた

「母さんの所在を探すこと。一度も忘れたことなどありません」

 その瞬間、死霊術師の長ディルは手に持った骸骨があしらわれた長杖をカツンと床に打ち付けた

 その迫力にザガロは一瞬ビクッと怯えた。

「本当に口惜しき話しよ……」

 ディルのその表情からは激しい怒りと憎しみが吹き出ていた

「あの小僧に惚れたばかりにこの館から出ていった我が娘ラファ·····最後には他の魔血共に死の血を利用され今では所在不明。ホント許せぬ。あの小僧ギルティスがまだ生きているのであれば腸を抉って供物にしてくれる!」

 祖父ディルは父と母の話になると怒りを露わにする。

 それだけ母ラファが死霊術師ネクロマンサーとして優秀だったのだろうし、娘としても目に入れても痛くない可愛さだったのだろう。

 だがザガロには父親を祖父ほど憎めないでいた。

 もし今ここで父を前にしても多分自分は彼に死を与えない。そんなことできるはずが――

「おじい様」

 そう言うとザガロはなにかの決意を秘めた目で祖父を見上げた

「僕の使命はどこかで生きてる母を救い出すこと、そして父を殺すこと。それくらいちゃんと弁えてます」

「ほう、それならよいが」

 そういうとディルはまた玉座にゆっくりと座った

努努ゆめゆめその使命を忘れるでないぞ死霊術師ザガロ・ディアルグレイよ」

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