7話 それぞれの正義

「え?セドナ、そんな内容の手紙を渡したの?」

 カラはセドナの告白に意外そうな表情を浮かべた

 部屋の奥には革命組織『パルチザン』リーダーのデイヴィッドがぐっすりいびきをかいて寝ている

 それを横目で確認しながらセドナは声を潜めて言った。

「ええ、本来はサランド公を味方に引入れるのを目的にしてたけどデイヴィッドの書いた内容なら多分拒否られるって思ったのよ」

 その事を聞いてカラは「まあそうよね」と納得した様子でうなづいた

「それに私、デイヴィッドの革命のやり方に疑問を持ってるの」

 セドナはそういうとギュッと机に拳を押し当てた

「他国の力を頼ってまで急速に革命を進めるなんて絶対におかしいわ。それをいちばんよく分かっているのはカラじゃないの?」

 その一言にカラは暫く悩むように沈黙する

 その気持ちはわからないでもない。

 いくら暗殺者を辞めたとはいえカラの置かれた状況は微妙だ。

 一時期は夜美ノ国のために裏で働いていたのだし、今でも彼国との関係が完璧に切れた訳では無い。

 だからセドナは真っ先にカラにそのことを伝えたかったのだ。

「ごめんね、セドナ」

 カラは一言そう謝ると言葉を選ぶよう慎重に言った「あんたの考えは悪くないとは思う。あんたが言う誰も傷つかない革命がそりゃ理想だと思う……だけど世の中そんな甘くなんかない。『パルチザン』にはもう夜美ノ国のお金と武器がかなり入っちゃってる。今更誰も傷つけないなんて無理よ」

「でも、真実が魔血たちに気づかれてしまったら?そんなの武力衝突が避けられないわ」

 セドナはそういうと強く憤りながら言葉を続けた

「今回私が接触したサランド公爵は長年夜美ノ国と戦い続けた帝国の英雄。そんな方に真実が知られたら間違いなく私たちは潰される。だからわざと手紙の文面を変えさせたわ」

 その一言を聞いてカラは諦めたようにため息をついた

「わかったわ。あんたの気持ちはわかった」

「ほんと――?」

「でもこの事は絶対デイヴィッドには内緒よ!知られたらとにかく大変なんだから!」

 その言葉を聞いてセドナはチラッとソファで寝ているデイヴィッドを見たが直ぐに大きくうなづいた。

「でもホント……今日は色々ありすぎてビックリよ」

 そう言うとセドナはため息をついて言った

「そうね……こんな事になるなんて……」

 セドナはその瞬間、今日あったことが一気に駆け巡った。

 サランド公の娘に手紙を渡したこと、暗殺者と鉢合わせしてしまったこと、そして――

闇空間ダークデジョネーター·····』

 彼が使った見たことも聞いたことの無い魔法。

 セドナはずっとそれがずっと気がかりで仕方がなかった。

 いくら魔法の使えない不完全魔血であっても、セドナに魔法の知識がゼロという訳では無い

 それ故に、彼の使った『闇』の魔法に強い違和感を覚えられずにはいられなかった。

 魔血の属性血には8タイプある。

 火、水、風、地、雷、光、時、死――この8属性しか魔血の属性はないはず。

 なのに――

「おい、セドナ」

 その言葉を聞いてセドナはビクッとした

 はっとそちらを振り返ると、すこし疲れた表情を浮かべたレヴィが立っていた

「もう帰るから·····」

 そう言い残してレヴィは足を早め歩き出した

 セドナはハッとして彼を追う

 聞きたいことは沢山あった。彼の秘密を暴きたかった。

「待って!」

 夜がどっぷり更けた外に出るとセドナはレヴィを呼び止めた

 だけど彼は会えて何も言わず足を止めることはしない

 セドナは一瞬たじろいだがレヴィの心に届くほどの声を張った!

「私いつもここで待ってるから!いつでもここに来て!私待ってるから!」

 その時、彼が何を思っていたのかはわからない。

 だけどセドナはレヴィを放ってはおけないと思っていた。

 誰よりも強い暗殺魔法士である彼だけど、セドナの目にはとても弱い少年にしか見えなかった

 そして、それは過去の自分を見ているようであったのだ。

「私、待ってるから――!」

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