第18話 営業の条件をクリアせよ!

【前回までのあらすじ】

ミフネ、フブキ、サユリの三人は、校内に生徒によるカフェを開業するため、倉庫小屋を改装している

この日、ミフネは、校長の営業許可を得るため、校長室にやってきた。

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 ツガワ校長は、にこやかで話しやすい人だった。

それでもミフネは、緊張した面持ちで、彼に校内カフェの目的や意義について語った。

校長は、うん、うん、とうなずきながら話に聞き入ってくれた。

屋島高校は、十年ほど前までは校内暴力やいじめで荒れた学校だったらしいが、このツガワ校長が徹底した学校改革に取り組み、落ち着いた校風を取り戻したらしい。

その改革の目玉が「生徒の自主性」を重んじる校風だ。

学業だけでなく、学校行事も生徒が中心となって取り組み、学園祭では、各部活が出店や展覧会、ステージパフォーマンスを開き、どこの高校よりも盛り上がりを見せるようになった。

「ミフネさん、すごく面白いアイデアだね。いいと思うよ。でもね・・・・。」

ツガワ校長は、垂れ下がった目のにこやかな笑顔のまま、丸眼鏡の奥で鋭い眼光を放った。


 倉庫小屋に帰ってきたミフネは、明らかに浮かない顔をしていた。

「どうやった?校長の営業許可もらえた?」

ツナギ姿で作業に取り組んでいたフブキとサユリは手を止め、様子のおかしいミフネに歩み寄ってきた。

「どうしたんや、ミフネ~?まさか校長室で変なことされたんか~?」

「違うわよ!」

サユリの変な発想に思わず吹き出したが、すぐに真剣な表情に戻った。

「あのね、営業許可はもらえたの。」二人の顔がぱっと明るくなる。「でもね・・・条件があるの。」

「条件?」

ミフネは、手に持っていた営業許可証を見せた。

さきほど校長からもらった公印の入ったものだ。

そこには、本年度内を期日に「校内でのカフェの営業を許可する。」と書かれており、


「学業をおろそかにしないこと」

「保健所の営業許可・指導を受け、衛生管理を徹底する事」

「活動資金獲得の目的を超えて過剰な収益を出さないこと」

「全生徒が利用可能であること」


など、開業にあたっての条件がいくつも書かれていた。

学生が学業を忘れて金儲けに走ったり、食品を扱うことによる食中毒を引き起こしたりしないための布石が幾重にも打ってある印象だ。


そして、条文の最後には、「これらがひとつでも守られない場合、直ちに閉店すること」という厳しい規定もある。


「ふえ~ん!『学業を疎かにしないこと』って、ウチやばいの~。」

「課題提出が滞ったり、テストで赤点を取ったらアウトなんだって…………。」

泣き言を言いながら頭を抱えるサユリに、ミフネは刺すような鋭い視線を向けた。

「あ~、ウチいつもやが~!」

三人は頭を寄せるようにして作業台兼テーブルの上に置かれた許可証を覗き込み、何度も条文を読み返した。

「『全生徒が利用可能であること』は、大丈夫やな。元からそのつもりやけん。」

許可証の条項を指さしてフブキの表情がわずかにゆるんだ。

「いや、それが一番大変な条件かも。全生徒が利用できることを証明しなくちゃいけないの。」

「え!?何言いよんな?だってこんな倉庫小屋に、全校生徒九百人が入れるわけないがー。」

「一度に利用するんじゃなくて・・・文化祭が終わるまでの約4か月の間に、全校生徒に一回は利用してもらわなきゃいけないの。それが達成できなければ、文化祭が終わると同時にここも閉めなきゃいけないの!」

フブキとサユリの顔から血の気が引く。

「なんでそんな厳しいこと言うんやろ~。前にフブキがアイデアを校長先生に話したときは、よさげな雰囲気やったんやろ~?なんでじゃ~?」

サユリは、目に涙をためて半泣きになり、悲痛な叫びを上げた。

「その時は、生徒がお金を取ってカフェを営業するっていうことまで考えてなかったからね。」

「あ…………そうやな。『生徒同士の交流の場』としか言っとらんかったな。」

「イシハラ先生の話によると、生徒の中には、生徒同士で売買のやり取りをすることよく思わない人もいるみたい。」

「え~だれ~?だってまだカフェの話なんて、ほんの一部の人しか知らんが~。」

「その一部の人たちよ。特に、生徒会の中に猛反対している人がいるそうなの。」

「・・・ヨーコか!?」

フブキが声を荒げた。

「たしかに彼女はカフェには反対の立場だと思うわ。でも、反対派は彼女だけじゃないかも。だって、すべての部活は、生徒会に属していて、活動費は所属する部員から徴収する部費と生徒会が配分する学校からの生徒会予算で成り立っているのよ。でも私たちがやろうとしていることは、学年や部活の枠を超えた活動・・・しかも、活動費は自分たちで稼ごうっていうんだから、生徒会からしたら管理の行き届かない第三勢力って感じで不気味なんじゃないかしら。」

「ヨーコのやつー!うち、生徒会室に文句言ってくる!」

フブキは、これまで見せたことのないような怒りの表情で立ち上がると、戸口に向かって駆けだした。

「まって!」

ミフネが、呼び止める。

「経過はともあれ、この条件は校長から出されたの。だから、今さら生徒会に文句言ったところで覆らないわ。それにね・・・」

「それに?」

「私たち、今日まで、自分たちだけの秘密基地づくりのような感覚で楽しんでやってきたと思うの。その『楽しむ』感覚はこれからも大切にしていきたいけど、校内にカフェをつくる以上、そこには公共性が問われるってことなの。」

「公共性?」

「つまり、誰もがカフェを利用できるってこと。なかよしグループのたまり場じゃだめなの。四か月間で全ての生徒が一度は利用するという条件は、それだけ誰もが利用しやすいカフェなのか問われているんだと思う。これは、その公共性に対しての試練なんだよ!」

いつになくミフネの強い口調に、二人も圧倒される。

「そうやな。いっぱい宣伝して、たくさんの人に来てもらおうか。かなり厳しい条件やけど、やるしかないのう!」

フブキが顔を上げる。

「うん、うちも勉強がんばるわ~。」

サユリも涙を拭いて立ち上がる。

「まずは、お弁当を作って、野球部四十人からクリアしよう!」

「九百分の四十やな。なんかいけそうな気がしてきたー!」

「がんばるぞ~!」

「おー!」

三人は、熱い拳を天に突き上げた。


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