第8話 ■ ツナギに着替えて武器を取れ!

【近況ノートに挿絵を掲載中!】


【前回までのあらすじ】

成績優秀のミフネ、運動神経抜群のサユリ、デザインセンスの光るサユリ、三人の女子高生は、校内カフェをつくるための施設使用許可を得た。

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 翌日の放課後、イシハラ先生から、階段下にある台車を一人一台倉庫小屋に持ってくるよう言われた。

「まずは、倉庫小屋の中にあるものを一旦ぜんぶ外に出さなあかんな。」

倉庫小屋の鍵をあけた先生は、すべての窓を開け、室内にこもったかび臭いにおいを吹きわたる風で一掃した。

 ミフネ、フブキ、サユリの3人は校内から運んできた空の台車を押しながら、倉庫小屋に入ってきた。

「これ、フブキが作ったスロープ!」

サユリは、入り口の段差に架けられたスロープを発見した。

「そうや、ミフネも手伝ってくれたおかげでようできよるやろ。でも、木製やからな、どれぐらい耐久性があるかわからんけど。」

ミフネの台車は、スロープの上を渡り、なんの衝撃もなくスムーズに小屋の中に入った。

「すごーい!すごーい!」

ミフネが感嘆の声をもらす。初めてこの小屋に来た日、フブキが台車を何度もスロープの上を行ったり来たりさせて嬉々としていたように、ミフネも何度もやってみた。製作に携わった者としての喜びがこみ上げてくる。作る喜びに、使う喜び。その小さな幸せを積み重ねながら、これからカフェづくりが始まるのだと思うと、小学校の修学旅行の前日のように、高鳴る胸がはちきれそうになった。


「さあ、浮かれてないで、今から大仕事やで。これに着替えまい。わたしからのプレゼントや。」

そう言うと、イシハラ先生は、机の上に置いてあった衣類のようなものを指さした。それは、きれいに折りたたまれ透明のビニール袋に入った新品の作業着だった。

「わたしと同じツナギ。色はばらばらやけど。」

イシハラ先生が来ているベージュの作業着は、上着とズボンが一体化したツナギと呼ばれるものだ。机の上にあった作業着も同じタイプのツナギのようだ。ただし、色が淡い水色、黄色、ピンクだ。

「うわ~、うちピンクがええ~!めっちゃかわいいや~ん!」

そういうと、サユリは相談もなくピンクを取った。

 幸いなことにミフネの好きな色はピンクではなかった。ふとフブキを見ると同じような反応だった。二人は顔を見合わせ、「好きな方をどうぞ」と互いに手で相手を促す。結局、お互いに遠慮したまま硬直した雰囲気になりかけた。そこで、とっさにミフネが声を上げる。

「好きな方選ぶよ。せーのっ!」

ミフネは水色、フブキは黄色を指さした。

二人に笑いがこみ上げる。


「先生ありがとうございま~す!」

と言って三人は同時にビニールを開封した。

「思った通りや。あんたら好みもサイズばらばらやろ。」

言われて気づいた。そういえば、背の高いフブキ、中背のサユリ、小柄なミフネ、三人の体格はばらばらだ。

にもかかわらず、それぞれの好みをお見通しかのように、ぴったりのサイズをそれぞれに用意していたのだ。

「先生、なんでわかったんですか~。すご~い。超能力!」

先生は、「すべてお見通し」と言わんばかりにクールに笑う。

倉庫小屋の窓は風通しのため全開放されていたが、三人はそんなことお構いなしでツナギに着替えた。もともと敷地の片隅にある倉庫小屋周辺は人目が少ないこともあるが、そんなことを懸念するより、早く袖を通したいという気持ちが先行していた。


「ジャーン!先生、どうですか~?写真撮って~。」

サユリはそういうと、鞄の中から使い切りカメラ「写ルンです」を取り出し、カリカリとフィルムを巻くと先生に手渡した。

「なんか、女戦隊モノみたいやな。そうや、なんか武器持とうや!ミフネはハンマー、サユリはスケール、うちはインパクトドライバー!」

「ちょ・・ちょっと待ちまい!フブキの武器だけカッコよくてずるわ~!」

確かにインパクトドライバーだけ重厚な拳銃のようで格好よすぎる、とミフネも思った。

「ほんで、写真にうつるときは、うちが真ん中な。背が高いのが端やったらバランス悪いやろ。」

お構いなしに続けるフブキに、さすがのミフネも抗議した。

「ちょっと、それはダメよ。ほら、私がセンターで、二人が背中合わせに両脇を固めるって雰囲気はどう?」

「あかんよ~。うちがセンター。だって一番かわいいも~ん!しかたないや~ん。」

「それ、どういう意味?うちらはかわいくないってこと?!」

三人のバカバカしい口論がどんどんヒートアップしていく。

「やかましい!あんたら、仕事する気あんの?!」

業を煮やした先生の怒りが爆発させた。

「ごめんなさ~い。」

1枚ずつ入れ替わってさっさと撮ればええじゃろが。さっさと撮って仕事するで!」


 浮かれた表情で写真撮影に興じる三人。

しかし、この時まだ、これからの地獄のような作業が待っていることを知る由もなかった。

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