その5 三日坊主

 私は興味のあることは継続できるが、言ってしまうと興味がないものは続けることができない性分らしい。集中力がないとかそういう問題とは、これはまた別の問題だ。要は飽き性なのだろう。


 世間では飽き性のことを「三日坊主」とも言われる。なぜに坊主なのだろうか。坊主に何があってわざわざ慣用句になるまで現代に伝わるような単語になったのだろうか……。


 興味があって調べてみると、坊主を志したはいいが、どうも寺での修業がつら過ぎて三日で坊主を辞めてしまったお坊さんがいたことから、三日坊主という言葉が出来上がったらしい。


 いったいこの三日坊主とは厳密にいえば誰なのだろうか。わざわざ慣用句に残るくらいなのだろうから、もしかしたら名の知れたお坊さんなのかもしれない。だけど名の知れている割には三日しか坊主をしていないのだから、最終的に何になったのか、むしろその三日坊主のその後が気になる。ついでにいうと、現代まで「三日坊主」という言葉として残るくらいなのだから、何かの賞くらいその坊主にあげてもいいくらいではなかろうか。執筆しながらそのようなことを考えてしまう。


 そんな、どこの馬の骨とも知れぬ坊主に思いをはせながら、我が身を考える。


 運動をしようとバーベル等の筋トレグッズを購入し、ランニングのためのスポーツシューズを揃える自分。揃えた以上はそれらの器具を使用する。


 バーベル、重い。当たり前だ。バーベルにとっての存在価値はそこに集約されているのだ。むしろそれがバーベルの仕事なのだ。バーベルは己の仕事を武骨にこなし、私のことを叱咤激励してくれているのだ。


 そう思うと、少しはやる気が起こり、バーベルを上下させる腕にも力が入る。しかし、私の穴の開いた風船のようなやる気ゲージなんぞ、あってないようなものだ。バーベルの重さを前に、やる気は急速に萎んでいき、10分もしないうちにバーベルはその存在がなかったことになった。つまりは、物置き行きである。


 次にスポーツシューズ。足がそう簡単に疲れないように私が知らないような人間工学的な構造をしている、なんだかすごそうな靴だ。


 私は早速それを履いた。うむ、さすがはスポーツシューズ。足になじむ。……ような気がした。いや、このようなものはまずは雰囲気が大事であって、あとから効力が追随してくるものなのだ。


 そう自分に言い聞かし、私は早速ランニングに行こうとした時、ふと好きなゲームの発売日であることに気づいた。


 好きなゲームだ。一秒でも早く購入し、遊びたいというのがゲーマーのサガというもの。ランニングをしたいが、ちんたら走っていると売り切れるかもしれない。そうなれば入荷はいつだろうかとか、なぜ自転車や車ではなく己の足という現代の文明の利器を全否定するような古めかしいものに頼ったのかとか、もろもろの理由で自分で自分が許せなくなってしまいそうだった。


 私は迷いなく自転車を使った。しかも、ただの自転車ではない。電動自転車だ。ペダルの漕ぎは上々、足は実に軽やかだ。新品のスポーツシューズが泥で汚れることなくペダルを踏み続けていた。


 新作ゲームを購入し、家に帰宅した。スポーツシューズは新古品の様相をしていた。どこぞのオークションサイトで新品ですと言っても騙しとおせるかもしれないくらいだった。


 私は新作ゲームの封を開け、1か月程遊んだ時、そういえば運動をするという目的はどうなったのかと、ふいに思い出した。


 バーベルは物置きに、スポーツシューズは日常靴と化し、もはや本来の目的用途を外れていた。


 なんということだ。三日坊主でさえ三日は坊主をしていたというのに、私は1日どころか半日も経たぬ間に運動を辞めてしまった。


 三日坊主はもしかしたら偉いのかもしれない。人間、さして興味もなくその場の思い付きで始めた行動など1日ももたないものだ。三日坊主が何をもって坊主になろうとしたのかは知らないが、三日は耐えたのだから、ひょっとするとその気はあったのかもしれない。私はその気もなかったことに、バーベルと運動靴を購入し、財布の中身をスカスカにしただけだった。






 最近、外出をしていない。


 もしかすると、物置きに眠っているバーベルの出番が来たのかもしれない。


 今度は半日坊主にならないだろうか。


 三日坊主を越えられるだろうか。





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