-54- 「提灯暗行」

 森崎君の家で遊んだ後、帰り道で自転車のタイヤがパンクしてしまい、すっかり日が暮れてしまった。


 周りが田んぼだらけで、街灯もない暗い道。


 畦道を月明りだけを頼りに、蛙の鳴き声を聞きながら恐る恐る歩いていく。


 すると、遠くからこちらへ、光がゆらゆら揺れながら近づいてきた。


 懐中電灯の光だろうか、逆光でよく見えないけど、人影がこちらに近づいてくる。


 最初は懐中電灯だと思った光が、近づくにつれ、そうじゃないことが段々と分かってくる。


 それは多分、提灯だった。


 やがて、光さえあればお互いの顔がはっきり見える距離まで近づいた。


 その提灯の持ち主が、提灯を持ち上げて僕の顔を光で照らした。


 相手の顔も、照らされる。


 人間じゃないとは思っていたけど、一つしかないその目玉は笑う様に目を細め、大きな口から垂れた長い舌がちょろちょろと踊った。


 人を食べちゃうタイプの、明らかにまずい奴だ。


 僕はそいつに背を向けると、パンクした自転車に跨って無理やり漕ぎ出し、叫びながら元来た道を引き返して森崎君の家に駆けこんだ。


 森崎君は僕の様子に目を丸くし、「真実はビビりだなあ」と笑った。


 結局、しばらくして帰ってきた森崎君のお父さんが、トラックで自転車ごと家まで送ってくれた。


 お母さんには滅茶苦茶怒られた。









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