(吏`・ω・´) 私は、くるりの親友にふさわしくない。

 相楽そうらくが急に詰めてきて、私は戸惑うばかりだ。


 いったい何なのだ。


 付き合う?


 私がくるりと?


 そんな馬鹿な話があるか。


「いい、相楽くん。私とくるりはそんなんじゃないわ。私たちの間にあるのはあくまでも親友としての愛。清い友情なの。アガペーなの。そこへ付き合いたいだなんてよこしまな考えを持ち込むだなんて不潔よ不潔ぼへへへへへ」

「そのベッタベタに溶けた真夏のアイスクリームみたいな表情キリッとさせてから出直して来いよ」


 相楽の追求は厳しい。


「御託はいいから、一回ガッツリデートしてみよう」

「それは……」


 それ私が考えてたことなんですけどぉ! とは言えない。


 だって、たぶん私の勘違いだし。これ以上株が落ちたら、いよいよ底値である。


「それにな―――あ、ナガサ戻ってきた」

「気になるところで切らないでよっ!」

「いいから俺に任せとけよ。付き合ううんぬんは置いといて、もっと仲良くはなりたいだろう」

「はい」


 くるりと仲良くという言葉にだけ反応するパブロフの犬並みな脳がうらめしい。


「また二人だけで仲良くしゃべってる~」


 いたずらっぽく頬を膨らませたくるりがやってきて言う。


「なに喋ってたの?」

「ナガサがお腹を壊したんじゃないかって心配してたんだ」

「くるりはトイレなんて行かないからぁッ! さっき食べたハンバーガー二つとホットドッグ三つとフライドポテトは過不足なく消化したからぁッ!!」

「カズくん、やっぱりわたし食べ過ぎだと思う?」

「少し燃費が悪いだけだろう。なぁ二俣ふたまた、ナガサ別に太ってないよな」

「もちろんよ。くるりはそのままでいいわ。ちょっと食いしん坊なところが可愛いもの」

「えへへ。そう?」


 くるりが喜んで笑ってくれている。


「そうよ! たとえ少しくらい増えたとしてもすべてがあなたの魅力なの! くるりの身体、その血肉と骨と細胞の一辺たりとも無駄なものなど何一つないわよォ!」

「あはは、そう……なのかなぁ……」

「一人の少女の外見を肯定したいときに使う語彙とちゃうのよ二俣」


 相楽に指摘され、どうやらまたやってしまったことに気付いた。


「二俣、これからナガサへの褒めは腹八分目にしとけ」

「うん……」


 相楽にこっそり耳打ちされたアドバイスにも、素直に頷く。


「ナガサ、服でも買いに行かないか」

「え、カズくんの!?」

「嬉しそうで悪いが、違う。二俣がな、お前に服を選んでくれるらしい」

「はい!?」

「おお!!」


 相楽の急な提案に、くるりは喜び、私は悲鳴をあげる。


「さ、行くぞ」


 こちらに文句を言わせず、相楽はさっさとカジュアルなショップの方へ歩き出していく。


「相楽くん! 私、服なんて選べないわよ!?」


 前を行く相楽に追いすがり、耳元で抗議する。


「黙して聞け二俣」


 なんだその口調。


と言っている。それでも難しいか。ナガサのことは大抵なんでも知っているアンタが?」

「……っ! それならできるわ」

「どの道アンタが選んだ服ならナガサは喜んで着てくれるだろう。すると何が起こる?」

「な、なに?」

「お揃いコーデができる」

「はぅ!!?」


 お揃い、くるりと、二人。


「くるり! 私にすべて任せておきなさい!! あなたを最強に輝かせるコーデを見つけてみせるわ!!」

「すごい気合だねぇ」

「服屋まで摘まみ出されんように気を付けろよ」


※※


「お待たせ~」


 試着室から、私の選んだ服を着たくるりが出てきた。


「はぁ~~~」

「へぇ」


 少し夏を先取りした白のサマーニットワンピース。身体のラインが割と出る大人っぽいデザインだが、腰のところのリボンが甘めでヒールのサンダルはゴムストラップで無邪気なイメージになるように。そして頭には幅の広い麦わら帽を被せた。


「えへへ、どう?」

「可愛いじゃないか。なんだかノスタルジックっていうか。なぁふたま―――」

「ありがとうございます、ありがとうございます」

「新たな神が試着室でお生まれになっておられる」

「そうよね。あの夏を私たちは共に生き抜いたのよ……」

「恐らく存在しないひと夏の思い出が脳内再生されておる」

「ようやく輪廻りんねの時を超えて出会えたのね私たち」

「前世の因縁が絡んでくる物語のラストを迎えられておる」


 なんだか相楽がうるさかったが、私は一心不乱に可愛さの頂点にたつ天使様を拝み続けていた。


「ワンピースはけっこう持ってるけど、こういうお姉さんなのはちょっと新鮮かも。ありがとね、吏依奈りいな

「礼には及ばないわ」

「化粧が落ちるほど滂沱ぼうだの落涙かましたあとじゃもう平静を装う意味ないよね」

「どうよ相楽くん!? あなたにくるりのこぉんな魅力的な姿を引き出せるかしらああああ!?」

「ここぞとばかりにマウントかましよるな」

「ねぇねぇ、カズくんコーデも見てみたいな」

「俺はいいよ。もうお前ら二人と同じ空間にいる壁だと思ってくれ」

「いーやーだー!! カズくんの選んだ服も着ーたーいー!!」

「まだ買ってない服でそんなアグレッシブに駄々こねるな。そして二俣は8Kでムービー撮るな残すな盛るな」


 結局、くるりに押される形で相楽も服を選びに行くことになった。


「珍しいわね。くるりがあんなわがまま言うなんて」

「そっかな? でも、カズくんの前だとついつい甘えたさんになっちゃうかな~」

「ふぐぅ! うぐぅ!!」

「吏依奈!? 個性的な声で特徴的な地団太を踏むのはやめよう!?」


 包容力で負けた。悔しい。辛い。


 しかし、くるりの言うことも分かる。


 相楽の彼女に対する接し方は軽やかだ。


 それにひきかえ、私は―――


「おーいナガサ、とりあえず俺の無いセンスで選んだぞ」


 内省の最中だったが、相楽が戻ってきたので中断する。


 ここは、ここだけはお手並み拝見だ。


 くるりの理解度では絶対に負けていない。


 はずだった。


「おお~って感じでしょ?」


 下はすらっとしたダメージジーンズ。上は無地で大きめのTシャツ。グリーンのハイカットスニーカーがシンプルな中、良いアクセントになっていた。


 それ以上に目を引いたのは、頭に乗った野球帽だ。


 くるりがどこか自慢げに出てきたのも分かる。


 こんなくるりは、初めて見たからだ。


「こんなボーイッシュなのって初めてだったからワクワクしちゃった」


 私の知らない、新しいくるりが、そこにはいた。


「どうして、どうしてくるりにこれが似合うって分かったの?」


 打ちのめされたまま、私は相楽に訊いた。


「アリバイを崩された殺人犯みたいな顔で訊くことじゃなかろうってのは置いといて―――ナガサは五人きょうだいで、兄と弟に挟まれてるんだろ。で、ジャンプしか読まないとか、俺のマウスガードに食い付いたりとか、けっこうボーイッシュな方が好きなんじゃないかと」

「なんでそんなぜんぶわかるのおおおお!?」

「きいいいいいい!!!!」

「歓喜と怨嗟えんさの二重奏でらイカツいのぉ 」


 完敗である。


 私はその場にへたり込んだ。


 くるりの新しい魅力を引き出した相楽の勝ちだ。


 私のも喜んでくれてたけど、リアクションがぜんぜん違うもの。


「おい二俣、大丈夫か」

「ええ、平気よ」


 そして、うっすら分かっていたことをようやく自覚できた。


 私は、


「相楽くん―――くるりの将来は、あなたに任せる……!」

「うむ。思った通りお頭がおバグりになられておる」


【続く】


キャラプチ紹介


☆よく行く服屋は?


(@*'▽') ZARA。

(-_-メ)和) GU。

(吏`・ω・´) しまむら。

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