(-_-メ)和) (吏`・ω・´) (@*’▽’) 勘違いトライアングル

視点 (-_-メ)和) 


 日曜の朝。


「あ、もういる」


 俺はマウスガードの奥で呟いた。


 愛知県名古屋市と岐阜県岐阜市に挟まれた、どこにでもある地方都市の、どこにでもある大型ショッピングモールの、どこにでもある最寄り駅の二番線ホームから見下ろす広場に、ナガサがいた。


 待ち合わせの30分前なのに、既に駅前のベンチに腰掛けて待っているのだ。


 背格好だけでは判別できなかったが、コンビニで買ってきたらしいシュークリームだのプリンだのを食べているのを見て分かった。


 それに―――まぁ、どこぞの百合にドタマをやられたヤベー女のように“天使”とまでは言うまいが、なんとなくキラキラとしたオーラというか、雰囲気を遠目からでも感じる。


「どうしたもんかな」


 マウスガードを付ける利点は、ひとりごとが呟きやすいところだ。


「デート、だよな。ナガサと二俣ふたまたの」


 ナガサは三人で遊ぶのだと思い込んでいるのかもしれないが、二俣は確実にナガサと二人で出かけたかったはずだ。


 二俣は、ナガサのことが好きだ。


 それは、秘めたる愛情か。

 いや、行き過ぎた友情か。


 いずれにせよ二俣がナガサ一筋であることは間違いない。


 そこへ俺が混ざったのである。

 どう考えても邪魔である。

 百合に混ざる男である。


「万死じゃないか」


 中世であれば燃えさかる十字架にはりつけられ、石持つ狂信者に悪罵され、五体を引き裂かれるだろう。


 ……冗談はさておき、だ。


「帰ろう」


 そうしよう。


 二俣にメッセージを送る。


『所用があって行けなくなった。すまないが、今日は二人で楽しんできてくれ』


 よし。


 どうせ、二俣も何かの気の迷いだろう。

 涙目で迫られ、つい一緒に行くと行ってしまった俺と同じく。


 どこか晴れ晴れとした気持ちで、折り返しの電車に乗るべく歩き出した俺だったが。


「待ちなさい」


 おった。


 一旦改札を出たところに、すらりとしたスキニーパンツにシックな柄のトップスと春物のライダースジャケットを合わせた二俣吏依奈がおった。


 薄桃色のロングスカートにややオーバーサイズな白のパーカー姿のナガサも一緒におった。


「くるりとのお出かけをドタキャンしようなんて良いご身分ね」

「吏依奈も『お腹痛い』ってさっきメッセ送ってきてたよね?」

「まさかのダブルずる休み未遂だよ。どういうことだよ」

「それはどうでもいいの!!」

「小さな疑問を大きな声量で圧殺すんのやめろ」

「吏依奈ってば変なんだよ。ずっとあっちの植え込みにフルフェイスのヘルメット被って隠れてたの」

「その奇行をくくるのに“変”の一文字ははなはだしく力不足では?」

「うるさいわね! ライダースジャケットに合うかなと思っただけよ!!」

「どこぞのファッションリーダーだよ。不審者フシンシャッションリーダーだろ」


 日曜朝の閑静な駅前でやかましい三人組である。


「……相楽くんが来るのを待っていたのよ」


 やけにしおらしく白状する二俣。


「……ははーん」


 さては、ナガサと二人っきりでデートするのが怖いんだな?


「案外ヘタレたところがあるんだな、アンタ」

「何の話!? っていうか誰がヘタレよ!!」

「そういうことなら一緒に行ってやるよ」

「なんかすごく腹立つんだけど、まぁいいわ」


 つまり俺は二人の間のかすがいというか、二俣の暴走をなだめるストッパーというわけだ。


 多少なりと気も楽になった。


「吏依奈、カズくん、なにを二人でお話ししてるの?」

「「今終わった」」


 意思の統一が済み、俺は足取りも軽く、二俣とナガサと共に歩き出した。


 が。


「お二人さん」

「ん?」

「なぁにカズくん」

「ほかのことはどうあれ、俺を挟むように歩くのは絶対にやめろ」

「「なんで?」」

「なんでも」


 百合に挟まるのは狙撃されても文句が言えないからな。 





視点(吏`・ω・´)


 日曜の朝。


 どこにでもあるショッピングモール最寄り駅に天使が舞い降りた。


 朝ごはんも食べてきたろうに、コンビニでおやつを買い込んで食べている。わんぱくでとっても可愛いくるりが見られた。


 眼福。


 相楽とのデートを貼り込みけるために始発(朝5:30)で来た甲斐があった。


 ぜったいに私とはバレないように、フルフェイスのヘルメットを持ってきたが。


「おかあさーん、おとうさーん、変な人がいるよ」

「服装は自由よ。ただ、自由には責任と闘争が伴うものだから気を付けなさい」

「彼女はまだ何もしていない。だからここはそういう個性だと信じてやるのさ」

「はーい」


 民度の高い親子連れには見逃して貰えたが、さすがにこの格好で尾行は無理があるな。


 それにしても、相楽は遅い。くるりを待たせるのは万死に値すると国際法で決まったことを知らないのか。


 待ち合わせの一時間前からくるりは来ていた。


 珍しい。いつもはどこぞでのんびり迷ってギリギリになるのに。


 それだけ相楽に会いたかったのかもしれない。


 それとも、デートではこれが普通なのだろうか。


 男子と遊びに行くなんて一度も無くて、時間の相場が分からなかった。


 ……相楽はどうなのだろう。


 女子と付き合ったこと。


 ありそうでも、なさそうでもある。


 学校では誰も何も言わないが、あのマウスガードはやはりとっつきづらく、怖そうに見える。


 しかし話してみれば普通……ではないが、やけに饒舌じょうぜつだし賑やかなところがある。いや、そうなってるのは私のせいか?


 ……なんで私が相楽のことなんか考えなきゃいけないんだ。


 気にするのはいつだってくるりのこと!


 あんたのためにこんなところにこんな格好で潜んでるわけじゃないんだから!


 ―――あつい。


 一人で勝手にエキサイトしてしまった。いい加減ヘルメットを脱ぐ。


 あれ? 新鮮な空気を取り込もうと見上げた空。高架の上。


 二番線ホームから相楽が見下ろしていた。


 遠目からでもよく分かる。マウスガードに背の高いシルエット。


 それに―――どことなく寂しそうな雰囲気も。


 ―――なんだ、あんたも30分前集合なんだ。


 少し安心。


 したのも束の間。


『ちょっと所用があって行けなくなった。すまないが、今日は二人で楽しんできてくれ』

「いやちゃんと来とるがね!?」


 ゴール直前でドタキャンを決めようとする相楽に叫ぶ。


 ……でも、少し気持ちは分かるかも。


 私も、けっこうドタキャン魔だったから。


「あ、やっぱり吏依奈だ。こんなとこでそんな格好でなにしてるの? お腹痛いんじゃなかった……」

「くるり……一緒に来て!」

「ええ!?」


 ダメだ。

 帰っちゃダメ。

 よく分からないけど、ダメ。


 ここで帰してしまったら、もう彼と話す機会がなくなるのではないか。


 そんな、漠然とだが確固たる予感があった。


 だから、くるりに見つかった驚きも見つけてくれた嬉しさもほったらかして、私は相楽を捕まえに走った。


 ―――相楽、分かってなかったら教えてあげるけど。


「繋がりって、簡単に切れちゃうんだから!!」


 そうして私は、改札から出てきた間抜けな男子を見つけた。


「待ちなさい」

「あ……」

「くるりとのお出かけをドタキャンしようなんて良いご身分ね」

「吏依奈も『お腹痛い』ってさっきメッセ送ってきてたよね?」


 以下略。いろいろ予定外だったが、とりあえず当初の目的は達せた。


「ほかのことはどうあれ、俺を挟むように歩くのは絶対にやめろ」

「「なんで?」」

「なんでも」


 なぜかくるりの隣を歩かせようとしたら拒否されたけど。





視点(@*’▽’)


 今日は絶対に遅刻しないようにと思ったら、一時間も早く来てしまった。


 そうしたら吏依奈から『お腹が痛くていけない』ってメッセージが来た。


 でもそうじゃなかった。あの親友は、たまによく分からない。


 カズくんも、なぜか直前で帰ろうとしていたらしい。


 去年からできた女友達と、今年からできた男友達は分かりづらい。


 でも、ひとつだけ感じていることがある。


 それは、ただの勘違いかもしれないけれど。


 わたしはせめて、邪魔をしないようにしたいと思っている。


【続く】

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