第29話 のんびりしている朝霧ヨーコさん
結局、怪我……らしきもの?
で、先週2日休んだ、ど~も私です。
「朝霧さん、本当に大丈夫なの?」
と、上司や同僚から散々聞かれたのですが、
さすがに
「えぇ、魔法薬でばっちりですよ」
なんて言えませんしねぇ。
まぁとにかく精密検査してみたら意外と重傷じゃなかったってことにしてますけど、とにかくもう怪我はこりごりなのだけは本音なわけです。
さてさて、阿室さんが絶賛お盆休み継続中なため、これ以上お休みすることが出来そうにない私。
ま、いいけどね
現実世界では別段やりたいな、と思ってることもないわけですし。
そんな私
向こうの世界ではやりたくて仕方が無いことがありますので、そっちは楽しみで仕方ないんですけどね。
は~、窯でパンかぁ
うまく焼けるかなぁ
そんなことを考えながら仕事をしていると、やっぱ口元が緩むもんじゃないですか。
「あれ? 朝霧先輩、何かいいことでもあったんです?」
あらやだ
やっぱイケメンくんったら、こういうときにはしっかり話を振ってきますね。
貴水くんに笑顔で話しかけられた私ですけど、
「オリンピック、日本頑張ってるよねぇ」
って、ありきたりな話題でお茶を濁しつつ、仕事のエクセル画面の横にこそっと開いていた
「窯で焼くパンのレシピ」のホームページをそっと閉じましたとさ。
そんなお盆明けの会社には、山のようにお菓子がつまれておりまして、
んで、その分配をですね、この部署では、私朝霧ヨーコが一任されているのです。
は~、面倒くさい
買ってきたのなら自分でみんなに配りなさいよ~とか思っちゃうんですけど
みんなご丁寧に、出勤した私の机の上に置いてくださってるんですよねぇ。
まぁ、いいですけど。
お昼と同時に給湯室にこもりまして
お土産の袋をが~っとあけて
中身を数えて1人何個と計算しつつお盆にのせて、そしてみんなに配っていきます。
「お? これは誰の土産だい?」
え~、朝出勤したら机の上にありました(てへ
まぁ、どうにかこうにかお土産分配終了。
私の机の上にも結構な山が出来ています。
でも、私は食べません。
えぇ、これはテマリコッタちゃんへのお土産です……ふふ。
最近は定時帰りが定番です。
その例に漏れずに、今日も無事定時直後にタイムカードを押した私。
中には「よっしゃ5時が来たから本気出すか」
とか言い出すおじさんもいますけど、勤務時間中に散々煙草休憩しといて、残業代まで頂いちゃおうなんてホントいい根性なさってますね、と思っちゃうわけです……言いませんけどね。
さてさて、この日はまっすぐ帰宅。
パンの材料はすでに買ってありますし、
何より今日はお菓子もふんだんに
……おっといけない
クロガンスお爺さん超お気に入りの、あのクッキー買わなきゃ!
危ない危ない
私は、途中で24時間営業してるスーパー・ヘローズまで逆戻りして、しっかりクッキーを買いました。
しかし蒸し暑いです。
ただ歩いて帰ってるだけで、汗が噴き出してきます。
昔の私なら、クッキーついでにロング缶の3本も買ったことでしょう。
酒もなく、家にたどり着いた私。
まずは軽く家の掃除から。
いえね、やっぱ思ったのですよ……向こうの家ばっかり綺麗にしると、現実世界の家も綺麗にしてあげないと可愛そうかなって。
とりあえずズボンだけ脱いで、シャツにパンツ姿という、言葉だけ言えばなんかエロですね、な姿でわさわさ掃除をしていく私。
こないだ1度しっかり掃除をしているので、割と綺麗ですね。
さて、明日の朝、出勤前に出すゴミもまとめたし、と
私は改めてシャワーを浴びて、今日の汗を流します。
うん、やっぱ気持ちいい。
気持ちいいけど……やっぱりあれですね
木の家
通り抜ける風
なんか、自然の中での暮らしを知ってしまうと、現実世界の気持ちよさっていうものが、なんだかすごく空しく思えてしまう今日この頃なわけです。
髪を乾かし、
お化粧を済ませたら、さて、準備完了です。
最近は家でご飯を食べないなぁ、と思いつつも、
その分朝ご飯が美味しい気がするので良しとします。
ベッドの上に、パンの材料は乗せたわね……忘れ物はないわね……
私は3回通りベッドの上に乗せている、向こうの世界へもっていく品物達を確認。
……よし、大丈夫
ちゃんとクッキーともらいものの和菓子詰め合わせものせてますよ!
私はいつものようにベッドに横になると、ゆっくり目を閉じました。
◇◇
目を開くと、そこには木の屋根。
はい
やってきました、あちらの世界です。
私はむくりと起き上がります。
ん……いつもの寝間着姿ね。
一度大きく伸びをしてからベッドを後にした私は、タンスから作業着を取り出して着替えます。
テマリコッタちゃんが来る日ですし、少しお洒落な服を、とも思ったのですけど……まぁいいわよね、ふふ
最近は夜明け前にここにやってくることが普通になっている私は、魔法灯片手に部屋の中を移動していきます。
カーテンを開け、窓を開けます。
昼間の暑さを、まだ感じさせない、まったりした空気が部屋の中に入ってきます。
ふふ……この雰囲気、最近とてもお気に入りです。
台所でやかんを魔法調理台にかけて、私は魔法灯片手に窓から外を見つめていきます。
山の端は、徐々に明るさを増してはいますけど、
夜の宵闇と、夜明けの朱色が複雑に混ざり合った、なんと言えない色合いをかもしだしています。
おそらく家の真上はまだ星空です。
ホント贅沢な時間ですよね。
私は、沸いたお湯を保温ポットに入れると、
そのお湯で1杯だけ紅茶をつくりました。
ティーパックは入れたまま。
すぐ薄くなるでしょうけど、まぁ、それもいいじゃない。
私はトレーに
カップと保温ポット、それに和菓子を少しのせてベランダへと移動します。
玄関をくぐり、短い階段を昇ると、木製の小さなウッドデッキ風のベランダがあります。
そこには、イスが3つある、丸いテーブルが1つ
私は、テーブルのトレーを置くと、そのままイスに腰掛けます。
ベランダからは、山が見えます。
まっすぐ進めばオトの街
左に曲がればクロガンスお爺さんのお家
そんな山の天辺は、徐々に白み始めています。
私は、そんな光景を眺めながら、紅茶を口に運んでいきます。
なんの変哲もない、普通のティーパックの紅茶
ふふ、不思議なものですよね……この場所で頂くと、なんだかとっても美味しいわ。
私は、カップを両手で抱えながら、ぼんやり山を眺めていきます。
今は青々とした緑でいっぱいのこの山ですが
私がやって来る前……春はどんな姿だったのかしら……
そして、秋にはどんな景色を見せてくれるのかしら……
テマリコッタちゃん
彼女の成長を、これからも見守っていくことが出来るのかしら。
オトの街の皆さんとも、
もっと仲良くしたいですしね
私は、そんなことを考えながら、ベランダのイスに腰掛けています。
そうね
そろそろクロガンスお爺さんやテマリコッタちゃんのために朝ご飯を準備しないと
私はテーブルの上のトレーに、両手で持っていたカップを乗せると、その上に乗せている和菓子の包みを1つだけ手にとります。
テマリコッタちゃん、ごめんなさいね
私は内心でテマリコッタちゃんに謝罪しながら、そのおまんじゅうを1つ
ぱくりと口に運ぶと、テーブルの上のトレーを手に取り、イスから立ち上がります。
お口をもぐもぐさせたまま
……あらやだ、以外と大きかったわね、このおまんじゅう。
私は、そのおまんじゅうを、なかなか飲み込めないまま、台所へと移動していきます。
さてさて、今日は内を準備しておこうかしら。
クロガンスお爺さんは、
テマリコッタちゃんは、何を喜んでくれるかしら。
そんなことを考えるだけで、私は思わず笑顔になっていました。
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