第16話 裏宇宙とのつながり

「ハイペリオンがあのキモイ生物兵器を排除しましたわ」

「さすがは重力子砲です。重力崩壊させてぺしゃんこにするなんてエグイ攻撃ですこと」

「ですわね。ところでそこの金髪巻き毛の伯爵さん。情報の提示をしてくださるかしら?」


 ミサキ総司令の要請に対し、オートロックは優雅に一礼した後に説明を始めた。


「裏宇宙と言いましても、実はそう遠い存在ではありません。私たちの宇宙とは表裏一体の構造なのです。ただし、次元の壁は相当に厚い。これまでは意識体に影響を与える程度でした」

「闇の波動だな」


 オートロックはララの一言に頷く。そして話を続ける。


「そう。その、闇の波動に冒された者たちが、いわゆる悪魔と呼ばれている精神体です。しかし、今回は直接的な侵攻を開始したのです。残念な事に、私の拠点がちょうど彼らの裏宇宙と地続きになってしまっていた。これは想定外の事態なのですが、私の落ち度でございます。申し訳ありません」


 オートロックは潔く謝罪し、深く頭を下げた。


「オートロックさん。お顔を上げてください。貴方に関する審議は、事件が解決してからとします。今は目先の、裏宇宙からの侵攻についての対応を優先します。長門さん。お願いします」

「了解。オートロック氏から提供された情報をメインパネルに表示します」


 長門艦橋のメインパネルに、手書きの図面が表示された。それは大学ノートに鉛筆で雑に描かれていた。大まかには、大きな円が二つとその間ににある小さな円。そして、三つの円をつなぐ細い通路であった。


「ふふふ。私、絵心と言うものが皆無でして、見栄えが悪い点はご容赦願いたい。これは、現状を視覚的に、二次元的に表現しております。中間にある小さな円が我々オートロック一味が拠点にしている異次元空間。大きな二つの円が、この世界である三次元宇宙とあちらの世界である裏宇宙を示しています。本来は10次元以上の複雑な絡み合い方をしているのですが、ここは単純化しています」


 オートロックはレーザーポインターを使い、現状の説明を続けている。


「本来、裏宇宙からこちらへは来れないのですが、たまたま偶然、私の拠点としている異次元空間が裏宇宙と近い位置関係にあったことが災いの元でありました。つまり、向こう側からワームホールを繋げられたわけです。連中の侵攻を阻止するためには、このワームホールを破壊する必要があり、同時に、我々の拠点を消滅させる必要があります」

「それでよいのか?」


 説明中のオートロックに、突然ララが質問した。オートロックはララにウィンクして肯定の意を示す。


「ワームホールの裏宇宙側にある出入り口の周辺には、彼らの宇宙艦隊が終結しています。これはドローン艦を派遣して確認済みです。そこで、その出入り口にブラックホールを出現させ、付近の空間を丸ごと飲み込ませます。また、この異次元空間も〝超縮退砲〟で消滅させてしまうべきでしょう」

「貴様、〝超縮退砲〟の情報を何処で仕入れた?」

「ふふふ。詳しくお話するわけにはいきませんが、この戦艦長門が先日再び改装され、超戦闘形態へと変形可能となった事。そしてその際に〝超縮退砲〟が使用可能となった事は存じております。今は萩市、いえ、この地球と三次元宇宙を守らなくてはいけません。さあミサキ総司令。長門の〝超縮退砲〟を使用し、裏宇宙からの侵攻を阻止してください」


 ララとミサキはオートロックの言葉に頷いていた。


「姉さま。ここは彼の言葉に従うしかないかと」

「そうね、ララさん。では、戦艦長門は超戦闘形態へと変形します。長門さん。お願い」

「了解。私はAIとしての機能を優先します。メンタルモデル……もとい、人型インターフェースは一旦収納いたします」


 艦橋内のイスカンダルの人を模した、長門のインターフェースは姿を消した。そして長門は海上から空中へと浮上し、その艦体が変形を始めた。


 

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