第11話 宇宙海賊オートロック

「この指を何処まで突っ込んでやろうか? 耳がいいか。それとも、裏側から眼球を押し出してみようか?」

「あががが」


 アンドロイドのソフィアは容赦がない。鼻に突っ込んだ人差し指をさらに奥へと突っ込もうとする。くぐもった声を上げながらも、その男はしゃべる気配がない。


 ソフィアは男の鼻から指を抜き、今度は右手の人差し指と親指で、一本の前歯を掴んだ。


「一気に引き抜くと思うなよ。ゆっくり、時間をかけてじわじわと抜いてやる。クククッ」


 前歯を掴まれた男は脂汗を流しながらも、恐怖に耐えているのだが、敢え無く失禁してしまった。


「待って。僕が話します」


 容赦ないソフィアの態度に折れてしまったのは、その拷問の様子を見ていた小柄な男だった。


「酷いことは止めてください。僕たちは確かにオートロック商事の一員です。この会社が外部から宇宙海賊と言われている事も知っています。でも、僕たちは単なる会社員なんです。一生懸命、美味しいサザエを育てているだけなんです」

「社長……いや、提督が何かあくどい事してるんじゃないかって噂はあったんだ。でも、俺たちは何も知らない」


 ソフィアは痛めつけていた男から手を離した。歯を抜かれそうになっていたその男は、だらだらと涎を垂らしながら叫んだ。


「喋るな! 提督に知れたら俺の立場が無い」

「しかし、貴方が痛めつけられるのを、僕は見ていられない」

「そうだ。俺たち三人は一蓮托生だ。心も体も、いつも繋がっている」


 後ろ手に縛られている三人が折り重なり、庇い合っていた。そして、何となく頬を赤く染めている。

 その様子を見て不審に思ったララが光剣を抜き、その切っ先を彼らに突き付けた。


「どうでもいい事なんだが、お前たちが慕い合っているのはわかった。お前たちのボス、提督か? そいつがいる場所まで案内しろ」


 しかし、三人とも固まってしまっていた。そしてある一点を見つめていた。それはララの背後だったのだが、そこの空間が突然、黄金色に輝き始めた。その眩い光芒の中より、幾多のバラの花びらが噴き出してくる。その花びらの中を、ゆっくりと、スーツ姿の男が歩んで姿を現した。長身で細身。そして長髪の金髪は見事な巻き毛となっていた。その男の姿を見た瞬間に、三人の男の顔がほころんだ。


「社長!」

「提督!」

「伯爵さま!」

「お前たち、待たせたな。すぐに助けてやるぞ」


 ララは振り向いて、その金髪巻き毛男を一瞥したのだが、はあーッとため息をついたのちに光剣を収めた。何故か、全くやる気が失せてしまったようだ。


「ララ様。その男が事件の最重要参考人ですよ。きっと、宇宙海賊オートロックの首領です。何故、剣を収められるのですか? 姿を現した今がチャンスです!」

「そうだな」


 ソフィアの言葉に頷きつつも、ララは再びため息をつく。


「有体に言えば、私は腐女子ではない。こいつらの態度を見て、少し気分が悪くなっただけだ。ああ、間違えるなよ。私はLGBTに対して差別的な意識を持っているわけではないのだが、男同士が『ウホッ!』とか連呼して絡み合うような、カオスな場に居合わせたくない。ソフィア。スマンがこの場は任せた」

「あら、任されちゃいました。では私がララ隊長の代理として問います。貴方が宇宙海賊オートロックの首領ですね!」


 ソフィアに指さされている金髪巻き毛男は、笑顔を絶やさずに頷いている。


「そう。私が宇宙海賊オートロックの首領であり、次元航行海賊船オートロックの船長であり、海賊団オートロックを統べる提督であり、海産物養殖業・食品流通業・古物商・解体修理業・R18専門図書販売業・異次元倉庫業を営むオートロック商事の社長の115代目オートロックを襲名しているブライズ・ギル・オートロックとはこの私だ。うはははは!」


 バラの花びらを花吹雪の如く飛び散らせながら自己紹介をした海賊の首領であった。

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