第4話 1000年前の宇宙海賊

「萩市立地球防衛軍出撃! 総員、戦艦長門に乗艦せよ! 超重戦車オイ、および、彩雲改二を速やかに搭載せよ!」


 ララが指示を出す。しかし、椿はまだ不満気だ。


「この女性たちはどうするのですか? このまま海岸に上陸させますか? といいますか、すぐに捨ててしまいたいのですが!」


 声を荒げる椿に対し、長門が事情の説明を始めた。


「こちらの女性たちは、件の宇宙海賊に1000年のも間、囚われていた被害者なのです」

「1000年も?」


 椿の問いに長門が頷いている。


「事情は複雑です。1000年前、星間連合の追撃を逃れて地球に降りてきた宇宙海賊がオートロック一味なのです。彼らは萩市見島を拠点とし、周辺地域を荒らしまわったのですが、そのような乱暴狼藉を星間連合が許すはずもありません。星間連合軍の追手とオートロック一味との戦闘となりましたが、オートロック側が異次元転移技術を利用したゲリラ戦術を駆使した為、星間連合側が手を焼く事態となりました」


 長門の話に頷いていたララが呟く。


「その話は聞いたことがある。ここ100年ほど姿を見せていなかったのですっかり忘れていた。宇宙海賊オートロックの討伐戦だな。我々地球防衛軍の優先すべき仕事だ」

絶対防衛兵器アルマ・ガルムとしては、侵略行為ではなく犯罪行為として認識しておりました。排除対象としておりません」


 椿の言葉にララと長門が頷いていた。


「なるほど。では彼女達は要救助者。しかし、1000年も囚われていたのか?」


 ララの言葉に長門が頷いている。


「そうです。オートロック一味は、死した者たちも虜囚としていたのです」

「つまり、彼女達は亡霊?」

「そう理解しております」


 長門の説明に対し、ララは何故か納得できない様子だった。


「それならばなぜ、この娘たちは正蔵に触れるのだろうか? 生きている人間は亡霊に触れることはできない。その逆も然りだ」

「詳細は不明ですが、オートロック一味が亡霊の肉体を復元、三次元化していると推測します」

「なるほどな。1000年前に集めた美女に肉体を与えたが、オートロック一とやらは彼女達を満足させられなかった。それで正蔵に引き寄せられた。そういう事だな」

「はい」


 大まかな事情が判明した頃、戦艦長門は西の浜から東方にある笠山へと到着していた。そして、150トン級の多砲塔戦車〝オイ〟が後部甲板上に鎮座していた。長門の重力制御能力で、空中を浮遊し移動したのだ。そしてティルトローター機〝彩雲改二〟は、笠山中腹の格納庫から飛び立ち、長門の上空をゆっくりと旋回していた。


 黒猫は彩雲改二に搭乗し、正蔵と椿、アンドロイドのソフィアは超重戦車オイに搭乗している。ここ、長門の艦橋にはララと総司令のミサキ、そして、まるでイスカンダルの人のような長門の三名が席に着いていた。そして美女100名は、長門各所の砲塔内や砲座、銃座へと配置についていた。しかし、ララはその配置に疑問を持っているようだ。


「姉さま。あの、亡霊の女性を長門に配置してもよろしいのでしょうか?」

「大丈夫よ。彼女達はオートロックに対して、かなりご不満だったらしいから、きっと頑張ってくれるでしょう」

「まあ、相当な欲求不満があった事は推測できます」

「だから、その欲求不満をここで発散してもらいましょう。いいですよね。長門さん」

「はい」


 ミサキの言葉に長門が頷いていた。そしてミサキは前方を指さして叫ぶ。


「長門発進。目標は見島に同時存在する宇宙海賊オートロック一味のアジト」


 長門が全速で航行を始めた。上空を旋回していたティルトローター機彩雲改二も、ローターを水平方向へと向けて蒼空を舞う。そして、長門共々、沖の見島へと向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る