亡霊の戯れる海岸で……萩市立地球防衛軍[番外編]

暗黒星雲

第1話 バカンスは海水浴

 ここは萩市の海岸、西の浜。全国的に有名な、菊ヶ浜海水浴場の近所なのだが、海水浴客は少ない。


 一応、まともな砂浜であるにもかかわらず、何故かここを訪れる人は少ない。この西の浜は敬遠される理由がある。それは、ここで泳ぐとからだ。


 とは何か。


 よく言われるのが海の亡霊である。

 その昔、朝鮮半島や中国の沿岸部を襲ったと言われる倭寇の亡霊が現れ、そして、この海岸で泳ぐ人を海の底へと引きずり込むのだと言う。

 また、今はないのだが、この海岸には火葬場もあった。ここで火葬された人の魂がこの海岸に居残り、悪さをするとも言われていた。


 その、亡霊が戯れる海岸に、若い男女のグループが海水浴に来ていた。

 そのメンバーとは、萩市立地球防衛軍の隊員たちであった。


「正蔵さま! 正蔵さま!」


 元気いっぱいに砂浜を駆けまわる女児。見た目は三歳児くらいで、紺の水着の胸にはひらがなで『よしのつばき』と書かれた白い布が縫い付けてあった。浮き輪をかかえ、波打ち際をバシャバシャと走っている。


「椿さん。走っちゃ危ないです!」


 その女児を捕まえようと追いかけているのが、椿から「正蔵」と呼ばれている青年だ。見た目三歳児の椿は地球防衛軍の正式メンバーだが、正蔵は学生アルバイトである。


「何故に私がガキの遊びに付き合わされるのだ」


 砂浜に立ててあるパラソルの陰で、コーラをちびちび飲みながらブツブツ文句を言っているのは、金髪ツインテの女児。水着はフリフリのスカート付きワンピースを着ている。身長は椿よりかなり大きいが、それでも小学四年生程度しかない。もちろん胸元はぺったんこである。彼女が萩市立地球防衛軍の隊長、ララ・バーンスタインだ。


「黒猫さん。バーベキューの準備は如何ですか」


 見た目は高校生のグラマー美女が、黒人の青年に問う。彼女は黒のビキニを身に着けており、些細な動作のたびに揺れる胸元は、この海岸では眩しすぎる。


「はい。大丈夫だと思います。バーベキューコンロに炭に着火剤、もちろん食材も豊富に用意しています」


 黒猫と呼ばれた黒人の青年が答える。そしてその脇では、金属製のアンドロイドが黒猫を手伝っていた。


「ねえ、黒猫さん。サンオイル、塗っていただけるかしら」

「え、遠慮させていただきます。総司令」


 慌ててその場を走り去る黒猫だった。このグラマー美女こそが、萩市立地球防衛軍の総司令、ミサキ・ホルストだ。


「姉さま。誘惑に失敗したようですね」

「そうですね、ララさん。黒猫さんのゲテモノ趣味を矯正しようかと思ったのですが……」

「ぷぷぷっ。あの男、99センチのGカップでは物足りないらしい」

「貧乳が好み?」


 その一言でミサキを睨むララ。


「冗談ですよ。何と言いますか、アドバルーンみたいな体形の女性が好みだとか、やはり信じ難いのですが」

「好みは人それぞれです。姉さま。他人の想像を絶する趣味趣向にケチをつけるべきではありません」

「そうれはそうだけど、ちょっとね。女としての自信が揺らいじゃった」

「そうですかそうですか。揺らぎましたか。99のGで揺らぎますか」

「そうよ。揺れるじゃなくて揺らぐの。言葉って難しいわね」


 胸元がぺったんこのララは、再びコーラをちびちびと飲みながらそっぽを向く。彼女は姉の胸元に対し、相当な劣等感を持っているようだ。


 その時、沖合に大型艦の艦影が浮かび上がった。


「姉さま。今日は長門を呼びましたか?」

「いえ。突然、どうしたのでしょうか?」


 萩市沖に突然出現した大型艦は、大戦期の戦艦、長門であった。

 その長門が、今、この海岸へ向かって全速で航行してた。


※西の浜に火葬場があったことは事実ですが、現在は他の場所に移設されています。海の亡霊云々は全てフィクションです。信じちゃダメだぞ。

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