第5話 国連決議と三つのメカ

位置的な面も考えて、【宇宙人の落し物】は、アラスカにある基地に集められた。


隕石から・・・と言うより、隕石として地球に降ってきた怪物達は、移動の為の破壊以外は特に暴れる事なく、数日で活動停止した。

一部には飛行する怪物も目撃されたが、特に被害を出す事もなく、目撃も無くなっていった。


必然的に人々の関心は、怪物を簡単に凌駕した【道具】に注がれ始める。


現場を知らない権力者や、軍上層部の判断により、研究の為にアラスカの基地には科学者が大量に動員されたのだ。


だが、元より地球の技術ではネジ-らしき物-ひとつとして分解する事が出来ず、X線も透過しない。


決まったパイロット以外は、中に入る事も出来ず、パイロットですら機体のサンプルを採取する事が出来なかった。


思惑が完全にハズレた各国上層部は、全てを闇に隠蔽しようかとも考えたが、途中からそれは中止となった。

怪物の解析以外は完全に頓挫したが、この【道具】がアラスカから再度移動する事も無かった。



それは、今回の事件後に天文学者達から警告が発せられたからだ。


『これ以後も、今回と同様か、より大型の怪物が飛来する可能性がある』


学会は、一部にしか知られなかった流星群の情報を公開し、岩塊と思われていたソレが、今回の事件から未知の生物である可能性を示唆した。


「つまりは、太陽に向かっている怪物達が、流れによっては再び地球へ来る可能性があると?」

「その通りです。観測された大きさは、最大で数百メートル。ソレが、今回の様な生物とは限りませんが、大量に飛来した場合、現行の兵器で対処できるのでしょうか?」


官軍科の関係者を招いた国連での説明会で、皆が頭を抱えていた。


「これは、一種の侵略なのですか?」

「わかりません。あの怪物に知能が有ったのか、何者かにコントロールされていたかは不明ですから」


「次回も、二・三日で自滅するのでは?」

「可能性だけだろう?複数の大きさが観測されていると聞いたばかりだろうが!」


「戦略核を用いれば、巨大生物とて敵ではありません」

「今回の様に世界各地に飛来した場合、ところ構わず使えるのですか?第一、何回来るか分からないんでしょう?」


「誰か、正確な情報を持っていないのか?科学者なんだろう?」

「軍の情報機関で調べてくださいよ」


説明会は完全に迷走していた。

正確な情報も無く、対抗できる手段も無く、責任の所在もない。




「アレを使うしか無いのか?」


静まり返った説明会で、米軍将校が漏らした小声を、一人の科学者が聞き逃さなかった。


「【アレ】とは、一部の地域で『怪獣を倒したヒーロー』と呼ばれている存在ですか?軍の関係者らしいとの噂は流れていたのですが!」


目撃者を全て拘束する事はできない。

インフラの回復と共に、動画や情報は拡散する。


ロシアで怪物を潰しまくった巨大な作業重機。


太平洋で海上の怪物を切り刻んでいった潜水艦らしき物。


米国で怪物を焼き尽くした巨大なF15戦闘機。


隕石落下直後だと言う事もあって、情報統制も隠蔽も儘ならなかったのだ。


科学者の質問に、米日露の関係者が、眉間を押さえる。


「少し、休憩にしませんか?我々は検討したい事がありますので」


同時に席を立った三国に、他の者達から批難がとんだが、誰も大国の動向を止める事は出来なかった。





【説明会】は、食事を挟んだ三時間後に再開された。


参加者には、数枚の書類が配布され、初めて目を通した者は大きく目を見開いて、食い入る様に読んでいた。


「先の質問に、御答えします。今回の未曾有の事態に対し国連軍は、米日露の三国にて共同開発していた装備を、やむ無く投入致しました。これは、国家が単独で対応できない事象が発生した場合に備えたものであり、いまだに未完成の為に公表を控えていたものです」


急いで作ったであろうシナリオだが、一応の辻褄合わせをしてある。


あえて【兵器】ではなく、【装備】としたのは侵略目的と取られないためで、ロシアの重機タイプを引き合いにだして言い繕うつもりだ。


【未完成】と言う説明を入れた複数の理由の一つには、現在の三機の形状が、既に目撃時とは異なっているからだ。


F15だった物は真っ赤な鳥の様な形状となり、巨大水中バイクは青いエイの様になり、巨大作業重機パワーシャベルだった物は黄色い象の様な形状に変化している。


更に、アラスカに集合した後には、全てが肉弾戦と遠距離攻撃の手段を取得していた。


「その様な物を、いつの間に?」

「本当の開発目的は、別にあるのではないですか?」


一部の国からは、疑う質問も飛び交う。


「この技術を公表すべきだ!量産すれば、この危機を乗り越えられるかも知れない」


正論だが、本心には大国だけが突出した技術と軍事力を持つ事への恐怖と顕示欲が含まれている。


次に技術将校が立ち上り、答えた。


「これらの根幹となるシステムは量産不可能なものであり、【未完成】と申した通り、技術的にも不安定な要素が多く、大変に危険なものです。ですから公開も資料提供もできません。本来ならば、このまま封印される予定でしたが、先も申上げた通り『やむ無く』使用した次第です」


正体も分からぬ【拾い物】である上に、解析も不能。

機能も日増しに上昇している。

更には選ばれてしまったパイロットにも問題がある。


やたらと突出してしまう戦闘機乗り。

海底遺物を密売しているスキューバインストラクター。

ロシアの体制に反抗的な下級労働者。


誰一人として、統制のとれた命令に従いそうにない者達だ。


下手をすれば【道具】を使い、国単位で崩壊させるかも知れない。

それゆえ、封印も予定されていたのだ。


「隠蔽工作だろう?」

「詭弁だ!大国は巨大な軍事力を独占しようとしている」

「もっと、情報の開示を要求する」


反対意見の中には、的を射ているものも有るが、三国の対応は変わらない。

いや、変えようが無い。


ここで『宇宙人からの』などと口にしたら、更なる混沌に陥る事は目に見えている。

実際に三国の上層部は、最終的には『思考する事を放棄した』のだから。


「我々三国が求める判断は、次の二つのみです。来る災害に対して各国が独自に現行の兵器で対応するか?申し上げた危険な装備を必要な場所へと派遣して対応する事に同意するか?」

「横暴だ!」

「なぜ、交渉の余地を与えないのだ?」


他国からは批難の声が止まらないが、三国は目を閉じて腕を組み、ただただ沈黙して待っている。


彼等とて、それ以外には、どうしようもないのだった。


その【説明会】は、そのまま三国の帰国により終わりを迎えたが、後日、最終的には、なし崩し的に派遣同意の書類が作られ、調印をする運びとなった。

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