実在する土地であやかしたちとの日常を描くご当地ファンタジー

突然引っ越しを決めた叔父に勧められ、叔父の住んでいた茨城県龍ヶ崎市の家に代わりに住むことになった椎葉八郎太。なかなか住みやすそうな土地でさっそく気に入った八郎太だが、地元に住んでいる女子高生の栗林夕声からとんでもないことを聞かされる。なんと彼が住むことになった龍ヶ崎市には人間に変身するあやかしが多く残っており、そこでは人間とあやかしの異類婚がごく普通に行われているというのだ! さらにこの夕声もただの人間ではなく……

あやかしが身近に住んでいる土地というのはファンタジーな設定だが、実はこれは実際の土地に紐付いた設定なのである。作中に登場する女化神社というのは実在するし、民間伝承である狐の嫁入りが「女化」という神社の名前の由来になっているという史料も実際に存在しており、一見作者の創作のような部分が現実の龍ヶ崎市としっかり関連しているのである。

また、駅で流れる独特の発車メロディや、コロッケ電車、白鳥が多く訪れる沼など、ファンタジー的な部分以外での身近な日常パートでもしっかり龍ヶ崎市の特徴がアピールされているのも心憎い。そしてあやかしたちに翻弄されつつも、徐々に龍ヶ崎市に馴染んでいく八郎太の日常描写も非常に楽しく、読んでいて実際に龍ヶ崎市に住んでみたくなる完成度の高いご当地小説だ。


(「ご当地小説特集」/文=柿崎 憲)

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