第8話 添い寝委員長

 翌朝、一度は目覚ましで起きたにも関わらず、布団の中から出られずに微睡んでいると、姉貴の声が聞こえた。



「か〜ずちゃ〜ん? 朝だよ〜? 早く行くんじゃなかったのぉ〜?」



 そうだった。昨日の疲労と登校にかかった時間をふまえて、もっと余裕を持つ為に目覚ましを五時にセットしたんだった。

 道理でいつもより布団が俺を離さない訳だ……。


 それにしても……ん〜? さすがに五時は早すぎたな。体が動かん。これじゃあ余計に疲れるな。うん、疲れる。もう少し寝よう。

 スマホを見ると五時十五分。うん、あと三十分くらい寝ても大丈夫だろう。



「返事ないなぁ。ねぇかずちゃんってば〜。起きないの〜? ならもう自分で起きてね〜? お姉ちゃん徹夜だったからもう寝るからね〜?」



 おう、そうしてくれ。つーかいつもは俺が姉貴の事起こしてるんだけどな!?

 そんな事を思いながら、返事もせずに俺は再び目を閉じた……。


 ──そんな俺の事を誰かが揺らす。おのれ姉貴……寝るってのは嘘じゃねぇか! 体感だとまだそんなに経ってないハズ。だから俺は起きぬ! 断固抵抗するっ!

 そして抵抗している内に揺れが収まる。

 ふっ、諦めたか。

 と思ったのも束の間。

 今度は布団の中に潜り込んで来やがった。ってことは芽依さんか!? こんな事するのはあの人ぐらいだしな。この前も酔って潜り込んで来たし。すぐ追い出したけど。

 だけど布団の中にひろがるこの匂い……姉貴のシャンプーの匂いだな。なんだ? 徹夜明けでおかしくなってんのか?

 そう思っていると背中側から抱きしめられる。


 そこで気付く。と。姉貴でも芽依さんでもないと。

 それは何故か。簡単な事だ。背中に伝わる胸の大きさと柔らかさが二人のどちらでもないからだ!

 ちなみに芽依さんは平野で姉貴はエベレスト。

 今の俺の背中に当たってるのは富士山と言った所か……って誰だっ!?


 抱きしめられてて上半身が思うように動かない為、足を使って掛け布団を蹴り飛ばす。



「あっ……」



 耳元に聞こえる小さな声。

 くすぐったくてゾワッしながらも首を限界まで回して後ろを見ると、見た事のあるスカートが視界に入った。


 うちの高校のスカートじゃねぇか!


 ってことはまさか──



「おまっ! もしかして篠崎か!?」

「仁村くん。おはよ?」

「仁村くん。おはよ? じゃないが!?」


 俺は慌てて篠崎の腕を解いて距離を取る。篠崎はベットの上に座り直して、少し乱れた髪を直していた。なんか色っぽ……じゃなくて!



「なんでいる!?」

「迎えに来たから?」

「どうやって家に!?」

「芽依さんが開けてくれたの」

「なんで俺の部屋に!?」

「芽依さんが入れてくれたの」



 あの野郎っ! けど文句言うのは後だ。今はそれどころじゃない。



「なんで布団の中に!?」

「それは……」



 いや、なんでいきなり深刻そうな顔になるんだよ。

 あれー? 俺なんかしたっけ?



「ずっと布団を被ってうずくまっていたから、てっきり昨日のトイレでの事が怖くて学校に行きたくないのかと思って……」



 あーあーあー! そうかー! そうきたかー!

 まさかのそれかー!


 ……な”ん”で”だ”よ”ぉ”ぉ”ぉ”ぉ”!!



「だから添い寝して抱きしめてあげたら安心するかな? って」



 同級生に添い寝されて安心できるかぁぁぁ!

 もっと自分の安心の方を優先してくれませんかね!?



「あと……」



 あと?



「そろそろ起きないと遅刻、するよ? 学校……行く?」

「げっまじか!?」



 俺は近くにあったスマホを手に取って見る。

 七時……だと!? そんなに寝てたのか!?

 これはヤバい。急がねぇと。



「わかったわかった! 学校行くから! 俺は全然大丈夫だから。昨日のことなんて気にしてないからとりあえず部屋を出てくれ。着替えるから」

「大丈夫? 手伝う? ギブス付いてると大変じゃない?」

「ギブスより大変な事になるから出てくれ」

「ギブスより?」



 だーもうっ! ラチがあかない!

 俺は部屋から出てもらう為に篠崎をベットから立たせようとする。

 しかし、掛け布団がギブスに絡まって体のバランスが崩れて篠崎に被さりそうになる。

 しかし──



「危ないっ!」



 いきなり篠崎が俺に向かって手を伸ばしながら飛び付いてくる。

 その結果、俺が後ろに倒れ、その上に篠崎が覆い被さるという状態に。

 てっきりすぐにどくのかと思えば、何故かそのままの状態で動かない。



「し、篠崎?」

「今日は……このまま、ご褒美にする?」



 は? なんだって!?

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