第8話 竜と聖女のやり直し

 私――愛別あいべつ璃玖りくは、デュランを見殺しにした罪で牢に収監された。

 私はといえば、ベルガモールは元気にしているだろうかと考えに耽りながら、何もすることがなくて暇を持て余している。

 何しろ、牢の中は娯楽が何も無い。神殿の僧侶が本でも差し入れしてくれたらまた違ったのだろうが、彼らは私を見放したらしい。まあ仕方ないか、という感じもする。罪を犯した聖女なんて、もう聖女とは言い難いだろうし。

 仕方ないから何度目かの惰眠を貪るか、と私は固いベッドに横になった。


「――璃玖……璃玖よ……」

「あら、ドラゴンさん、お久しぶり」

 また、竜の夢か。

「クク……見ていたぞ。随分とまあ、悪夢のようだな」

「そうね。でもベルガ様さえ無事なら、私はなんでもいいわ。それで? 処刑の日はいつ?」

「明日だ」

「明日? 随分急なのね。まあ、デュランへの復讐は果たしたし、この世界での人生はこれでいいかな」

「いいのか? 執行者はベルガモールだぞ」

「……なんですって?」

 ――いや、まあ、予想はしていた。きっと、そうなるだろうと。

「今なら魔法と奇蹟を使って脱走も出来るだろうが、ベルガモールはお前を追って必ず殺す。死刑が執行されようが逃げようが、お前は必ずベルガモールに殺される。そういう定めに決まってしまった」

「――私が、デュランを死なせたから」

 推しに殺されるのは、正直悪くない。

 でも、私の血で汚れるベルガモールは、想像するとちょっと嫌だった。

「で? どうすればいいわけ?」

「奇蹟で時間を巻き戻すのだ。デュランが死ぬ前の刻まで」

 つまりは、タイムリープ。

 正解を見つけ、処刑を免れるまで時間遡行を繰り返す。

 私とベルガモールが幸せになれる世界線を見つけるまで。

 私は祈るように指を組み、目を閉じる。時間を巻き戻すように、あの頃に還れるように、神経を研ぎ澄ます。

 やがて、意識が遠のいていった。


〈続く〉

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