第29話 隣国からの使者

 4月7日 8:56

 今日から俺たちは高校2年生だ。あと数分で始業式が始まる。別に、後輩ができるワクワクがある訳でも先輩が卒業した寂しさがある訳でもない。ただ入学してから一年経っただけなのだ。それでも、この国の春は温かみがあり気分も高揚する。

 「もう一年経つのか…早いなぁ。そう言えばまだチームが完成しないな。今年もあと1人のペリドットは入学するどころか見つからないし…おい、どうすんだよ。」机に上体の体重を乗せて顔を伏せたセージは真面目な話をしながらも眠そうだ。


 始業式とパトロールを終え、俺とセージが二人で門をくぐろうとすると、一人の衛兵に引き留められた。「陛下、隣国からの使者が来ています。お通ししますか?」

 今まで交流を遮断してきた他国から使者もは驚いた。「いや、それはだめだ。この場で話を聞く。」

 衛兵が立ち去って少しすると、中年の貧弱そうな男が連れられて来た。「はじめまして、ベルシギス国王のレオ・ユルヴィル様。わたくし、隣国アルペストから参りました、オードリー・ベンジャーと申す者でございます。」

 「そうですか。ご要件は?」

 「貴国は長年他国との交流を遮断しておりますが、…どうでしょう?そこで我が国と手を取り合いませんか。我が国の最先端の技術

を分けますよ。」

 「つまり開国しろと?」

 「まあ、要約すればそうなりますが…。我が国はですね、土地の問題で農業よりも鉱業に長けているんです。そのため、貴国の農業に役立つ道具を作れると思います。デメリットのない話でしょう。」

 「残念ですがお断りします。ベルシギスは困っていませんので。」

 すると男は「せっかく開国するための良い機会を与えてやっているのに、断るというのか?なぜ国を閉ざす?わたしにはそれだけが分からない。」と顔を赤くして言った。

 「ご理解いただけなくて結構です。お引取りください。」

 「何か隠し事があるのか?説明もなく帰れと?それはいくらなんでも失礼だろう。」

 「先ほどから言葉遣いが気になりますね。失礼なのはそちらも一緒なのでは?戻ったら、メリットが見つからないからと言っておいて下さい。」

 俺が「門の外まで送って差し上げろ。」と声をかけると先ほどの衛兵が男を連れて歩いて行った。

 男は細身の体で抵抗しながらも、屈強な衛兵には勝てず門の外を出て行った。

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