第2話 きっかけはそれぞれーVer.ふぶきー

「あんた、コレ。」


短大も今日は授業をとっておらず休みなので一人ごろごろしていたら、掃除に来てくれていた母親に紙を渡された。


「なにこれ?」


私は受け取ったチケットに目を通さず聞く。


「相席バーってののチケット。駅前でもらったのよ。」


お母さんは手に持つ掃除機を止めて、私に目をやる。


「それで?」


相席バーなんて怖そうなところのチケットをなぜ幼気な娘に渡すんだろうか。


「行ってみなさいよ。あなたも20なんだから、男の一人や二人作ってもいいんじゃない?」


ふんすと鼻息を吐いて言うお母さん。


「いや、私は……」


私だって作りたくなくて作らないわけじゃない。

年頃だから彼氏だってほしくないといえば嘘になる。


けれど、仕方ないのだ。人と話せないんだもの。

早く話すのが苦手で、話はしたいけど声が出ないのだ。


それと、今どきの若い人のポンポンとすぐ変わりゆく話のテンポについていけない。

後は少しだけ恥ずかしがりやで、声が小さいのもある。


そのせいで彼氏どころか友達だって2.3人しかいないし……。


「もう決定事項だからね。今日の夜行ってみなさいよ。」


それだけ言い切ると掃除機のスイッチをつけ直して掃除を再開するお母さん。


この人、決めたことは絶対に曲げないから、これを渡された時点で私に拒否権なんてなかったのだ。


「………はーい」


私はそう小さく返事をして、チケットの詳細を読む。


「相席ね…。」


ぽふっと音を立ててベッドに倒れ込んだ私は、優しくてゆっくりと話してくれるイケメンとの相席を夢に見るのだ。

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