【未完】戦乙女クランの男の娘~男子禁制のクランに所属している僕は脱退したいと訴える~

キョウキョウ

第1話 辞めたいです

 ここは男子禁制の冒険者クラン『戦乙女』が所有している拠点である。


 女性しか所属していない、戦乙女クランのメンバーしか入ることが許されていない建物の中。しかも、ここはクランマスターが利用している執務室内であった。


 つまり入室を許可されるのは、限られた人間だけ。


 そんな場所に何故か、男性の僕は立っていた。男であるはずの僕は、信じられないことに戦乙女クランに所属しているメンバーの1人でもあった。


 部屋の中には女性がもう一人、椅子に座って僕の方をじっと見つめてくる。彼女は微動だにせず、黙ったまま。僕が口を開くのを待っている。


 まるでドラゴンのような鋭い眼で見つめられて、凄く緊張してしまう。


 だが、ここで怯んではいけない。


 僕はお腹にグッと力を込めて、いくぞ! と自分を勢いづけてからその言葉を口にした。


「今日こそ、戦乙女クランを辞めさせて下さい!」

「ダメだ」


 目の前の女性は、即座に言い放った。僕の目をジッと見つめたまま。何を言っても無駄だ、という雰囲気を醸し出している。


 これで、何十回目の訴えになるのだろうか。


 クランから脱退したいという僕のお願いは、何度目なのか分からなくなるぐらいは繰り返してきたやり取り。


 何度も辞めさせてくれと言っているのに、全く訴えを聞き入れてもらえていない、というのが現状だった。


「何故ですか? 男である僕が、男子禁制であるはずの戦乙女クランに加入しているメンバーだなんて間違っているでしょうよ! こんな問題が明るみに出る前に早く、クランのためにも僕を辞めさせて下さい!!」


 僕が訴えている相手は、戦乙女のクランマスターであるレオノールという名の女性である。


 彼女はクランメンバーに絶大な人気を誇る、他の冒険者クランからも一目置かれるような戦闘能力と存在感を持っている、美人で最強な人だった。


 そして、僕と同じ村で生まれた幼馴染。僕の性別が男である事も、よく知っている人物である。


 そんな彼女は、またか、という風な表情を浮かべて眉をひそめると、面倒くさそうにしていた。


 レオノールに向かってもう一度、僕は同じ言葉を口にする。


「辞めさせて下さい!」

「ダ・メ・だ!」

「そんなにハッキリと否定しないで下さいよ。それよりも今日という今日は、本当にクランを辞めさせてもらいますからね!」


 僕が不退転の意志を示すように、ぐっと体に力を入れて立ちはだかる。今日こそ、クランを辞めさせてもらうまでは絶対にココから動かないという決意を見せつける。


「ふっ。残念だが、お前が何を言おうとクランマスターである私は、許可しないぞ。絶対に、ギルを辞めさせない」


 彼女は、美しく口元を緩ませる。それから座っていた椅子から立ち上がると、僕の背後に回ってギュッと身体に抱きついてきた。


 僕よりも身長の高い彼女が、覆いかぶさるようにして抱きついてくる。背中には、レオノールの大きな胸の感触が。


「ちょ」

「なぁ、ギル。あの頃、私と約束してくれた事を忘れてしまったのか。もうお前は、私が夢を叶えるのを手伝ってくれないのか?」


 美女のレオノールが僕の耳元に口を近づけ、囁くような声を出してきた。ゾワゾワとした感触が背中を走る。こそばゆい。


 女のような見た目をしている僕でも中身は男なんだから、恋愛対象は女性である。こんな事をされてしまったら、反応せずにはいられない。


「あ、いや、ちが」


 そして、レオノールは僕の初恋相手でもあり今でも恋心を抱いている女性だった。そんな人から、身体が密着するほどにまで接近されて、こんな行為をされてしまえば僕はもう何も訴えられなくなる。


 慌てふためいている僕の様子を楽しそうに眺めて、レオノールがニヤリと得意げに笑っているのが分かる。背中から抱きついてくる彼女の顔は見えないが、見なくても分かる。


 くっそー。


 けれど、僕は彼女の特別な武器に抗えない。肌と肌が触れ合いそうになる耳元まで接近させていた顔を離すと、レオノールが僕の背中を叩きながら言った。


「それに、クランの中でも優秀なギルが突然辞めることなんて出来ないでしょうよ。さぁ、馬鹿なことを言ってないで仕事をしてきて」

「……はぁ。わかったよ」


 そう締めくくったレオノール。確かに、僕が男であるという理由以外にはクランを辞める理由が見当たらない。


 しかも、僕がクランを辞めるなんて言い出したら、何人か僕と同じように辞めると言い出しそうなメンバーが居そうだった。


 結局、今日も僕はクランを辞めるという目的を果たせないまま、クランマスターの部屋から追い出された。


 何度目になるのかも分からないぐらい、繰り返し行ってきた訴え。戦乙女クランを辞めさせてくれ、という僕の望みは今日も聞き入れてもらえずに、訴えは終わった。

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