犬を探す

倉沢トモエ

1 犬を探す

 地獄を数日かけて巡るのは久しぶりで、罰を受けない者にとってはどの場所も快適だったが、たずねた旧友のひとりは不在だった。

「まだあんな奴を探しているのか」

 見上げるほどの堂々とした大きさで入り口を守る門番の犬は、三つある頭のどれも、かの名を聞くと機嫌を損ねる。


「まったく、怪しからん奴だ」

「まったくだ」

「せいぜい地上で、愉快にやればいいさ」

「愉快にやれれば、の話だがね」


 こうなると、不機嫌がこちらに及ぶ心配が出てくる。

「まあ、さっさと私も退散しますよ、先生方」

「そう急ぐな、客人」

 去ろうとすると、引き留められる。

「聞いた話だが、奴は今、犬のかたちにされたらしい」

「また、へまをしたせいだとよ」

 三つの頭がげらげらと笑いだす。

「お前さんが行けば、点数稼ぎに近寄ってくるだろうよ。

 その時はまあ、よろしくやってくれ」


 犬探しなど、地上で人間の探偵を雇えば、いくらとられるかわからない。正直困った。

 私は丁重に礼を述べ、地獄をあとにしたのだった。

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