クイズ 誰がやったのでSHOW

鬼霧宗作

第1問 理不尽な目覚め【プロローグ】

 エンターテイメントはエンターテイメントに潰される。エンターテイメントを殺すのはエンターテイメントであり、それはネット社会の台頭によって、大きく浮き彫りにされた。


 無料の動画、無料のゲーム、無料の漫画、無料の小説。今の時代となっては、必ずやエンターテイメントに金を支払う必要はない。だからこそ玉石混交のエンターテイメントが世には満ちあふれてしまった。それは、さらにエンターテイメントの競合を助長させた。


 安かろう悪かろう――ひと昔前は、安いものは安いなりに悪いものであるという認識があった。しかし、今の時代において安かろう悪かろうという概念はなくなってしまった。安かろうがなんだろうが神様気取りのお客はいる。たかだか数百円の対価を支払うだけなのに、数千――数万円分のサービスを要求する不届き者までいる。それならばまだしも、無料のコンテンツに対しても、理不尽な要求を突きつけるクレーマーまで存在する。これは個人の問題ではなく、時代そのものがおかしな方向に進んでいると考えるべきだろう。残念ながら、それが今の日本の現状だ。


 無料のコンテンツが増えたおかげで、その競合率も高くなった。そのために、人目を引こうと過激なことをやり始める者も多い。動画サイトである【ウィーチューヴ】にて注目されている――俗にいうバズったクイズ番組もまた、過激なことをするネット番組であるといえよう。もっとも、これまでは予告編のみの公開であり、新たに本編が投稿されたのは、つい先日のことではあるが。


 真っ暗な画面から始まったライブ映像。しばらくするとスポットライトがひとつだけ点き、暗闇の中に男の姿を照らし出す。


 赤いシャツに黒のジャケット、下も黒のスラックスであり、ネクタイは趣味の悪そうな柄物。フレームの大きな眼鏡をかけており、今時にしては珍しく、髪は綺麗に七三分けにされていた。


「今宵、いよいよ始まります。新感覚クイズ番組――」


 男がそこで溜めを作ると、一斉にいくつものスポットライトが点き、スタジオらしき場所の全貌が明らかになる。男を中心に扇型に設置されているのは解答席だ。その解答席は二段になっており、男の左側に解答席は4席。そして右側にも4席。合計8席の解答席には、まだ誰も座っていなかった。


「クイズ! 誰がやったのでSHOW!」


 拍手が巻き起こるわけでもなく、またド派手な音楽が鳴り響くわけでもない。ただ、男の背後に飾られた【誰がやったのでSHOW】というロゴが、安っぽいネオンで下品に輝いただけだった。


「わたくし、司会の藤木流星ふじき りゅうせいと申しまぁぁす!」


 司会の藤木が声高々に言うが、しかし歓声はおろか拍手もなし。冷たいスタジオに、しんとした冷たい静寂が貼り付いている。空席の解答席が、寂しさをさらに際立たせていた。


「さてぇ、本日より始まります本番組は、地上波では絶対にできないような挑戦的な内容となっておりまぁぁぁぁす!」


 間抜けなピエロ。静まり返ったスタジオでたった一人、どこの誰に向けてなのか分からないメッセージを送り続ける司会者、藤木。


「百聞は一見にしかず! 口で説明するよりも、まずは視聴者の方にも実際に問題に挑戦していただきましょう!」


 場違いなテンションで続ける藤木。格好はもちろんのこと、なによりも静まり返ったスタジオでは、彼という存在は実に浮いており、俗に言うスベった感じになっていた。


「それでは第1問! これからお見せするのは、とある河川で発見された遺体の写真です。モニターのほうにご注目ください」


 下品に輝くロゴのネオンが天井のほうへと吊り上げられると、代わりに大きなモニター画面が降りてくる。そのモニターの画面が点くと、生々しい遺体の写真が映し出された。まるで助けを求めるかのように――川から這い上がってきたかのごとく、女性が河原にうつ伏せで倒れている。


「ある女性――仮名、名無し子さんが溺死体となって発見されました。女性は溺死であり、肺の中からその河川特有のプランクトンが発見されたそうです。当初は自殺ではないかとの線が強かったのですが、他殺の線が濃厚と判明しました。しかし、なぜか途中で捜査は打ち切られ、現在も犯人逮捕にいたっていません。そこで、当番組は総力をあげて、独自に犯人を突き止めることに成功しました!」


 藤木のボルテージは最高潮。それに呼応するかのごとく画面が切り替わり、そこには8人の男女の顔写真が並ぶ。


「さて、この8名の方々。実はこの方々は、これから参加していただくクイズの解答者の方々です! しかし、ただそれだけではないのが当番組の面白いところ。ここまで言ってしまえば、勘の良い視聴者の方は気づいてしまうのではないでしょうか!」


 急に真顔になる藤木。まるで後ろめたいことがあるかのごとくカメラへと歩み寄ると、誰かに耳打ちをするかのごとく小声で呟く。その言葉は、静かなスタジオには充分すぎるほどに響いた。


「そう、この事件の犯人もまた、8人の中にいるんです……」


 カメラから離れると、またしてもボルテージをマックスに近づけつつ、視聴者のほうが疲れるのではないかと思うほどのテンションを保ちながら続ける藤木。その姿は、いよいよ不気味にさえ見えつつあったのだった。


「さぁ、それでは解答者の方々にご入場いただきましょう! クイズ、誰がやったのでSHOW! これより開幕です!」

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