君との試練

第19話 別れ

 三月十日。珍しく雪のぱらついていたその日。

「さよなら」

 彼は一言だけわたしに言って、雪の中を去っていく。待って。その言葉は、口から出てくる事はなかった。

 わたしは一人ぼっちで、雪の中に立ち尽くしている。そして、ますます激しくなる吹雪が、わたしを完全に一人の中に沈めていった。


 夏休みの終わる少し前。わたしは、だんだんと迫りつつある高校受験の作戦を考えていた。

 真太郎に一緒に来て欲しいと頼むのはもちろん、彼が安心出来るような計画が必要だった。

 わたしは、私立高校と公立高校、そして本命の国立附属高校の日程とにらめっこしながら、椅子の上で丸くなった。

 心配事だった同時受験は、幸い全て日程的にもクリアできていて、私立公立国立の三校並列は可能だった。

 そして、もう一つ。わたしは日程を考えながら、自分の受験について考えていた。彼と同日に受験することももちろん出来る。だけど、勉強の都合を考えると、少しずれている方が都合が良い。

「やっぱり、推薦の方が良いかなぁ…」

 学科ではなくて、学校での成績と面接、討論と小論文で結果が決まる推薦入試。やはりこれを選択せざるを得なかった。

 確かに、その頃わたしは家族と真太郎以外の全ての外の人に対して、コミュニケーションに大きな不安があった。面接や討論なんかをしたら、きっと押し黙るか、どもって話すことさえままならない。

 だけど、それしか無かった。何しろ、時間の問題が最も大きいのだから。

 この国立の推薦入試は非常に早く、十二月末にもう行われる。そして結果もスピーディーで、一月の上旬、ちょうど他の高校の推薦入試が行われている時期には発表される。

 わたしの頭の中で描いた計画は、推薦を使って一月のうちに自身の合格を決めて、その後は彼の勉強に集中する、というごく単純なもの。とはいえこれ以外には思いつかなかったというのが、どうしようもない現実だった。

 そして、わたしは夏休みが明けた後。彼がわたしと同じ道を歩いてくれると言ってくれて、その代わりに学校に通い始めて、少しした頃。わたしは彼に自分の計画を告げた。

「そういえば、親御さんのOKは貰えた?」

「バッチリ。君の事を話したら、一発だったよ。それに、保険として色んなところ受けられるからね」

「よかった。そう言えば、君は塾には行ってるんだっけ?」

「一応」

「そう。じゃあ、公立と私立のはそっちに任せて、わたしは国立の勉強に集中するね」

「任せて!」

 その快活な笑みが、どれだけわたしを安心させてくれた事だろう。その笑みに触れる度に、わたしは彼への甘えを深めていく。

 ただその時は、それを自覚しなくてもよかった。初めての友達が出来た喜びに、満たされてさえいればよかったんだから。

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