涙は口ほどに物を言う

 今日は朝から悟さんの事務所で『夢の家』についての事前確認とやら.....。

きれいな理想の趣旨を述べるか、はたまたダークな本当の趣旨を述べるか.....私は葛藤しているの。


「おはようございます。」

「綾、わざわざごめんね」

「いえ。マイさんは?」

「今日は休み。風邪だって」


「じゃ早速。忘れないようにパソコンに打ち込みながら聞くけど、いいかな?」

「うん。もちろん」

「んー何から聞こうかなっていっても。細かい内装や部屋と部屋の導線とかバリアフリーとか、壁は相談しながら俺も入ったからいいとして.....あの家が目指したもの、あの家が建った理由を教えて」

あぁ 悟さんは頭がいい。中途半端な夢の話なんて馬鹿げてるわ。

私は肩の力を抜いた.....。


「あの家が建った理由......核家族やシングルの親が増える現代で、日々に追われてどうしても人付き合いが減って、閉鎖的な環境に陥りやすいと思う。

私がそうで......子育ても夫婦関係が行き詰まったとき、すぐ近くに人がいれば、同じような環境の人達かいれば、お互いに支え合い助け合って。自分が困ったら助けてもらい誰かが困ってたら助ける。そんな空間に暮らせたらと思ったから。


シェアホームと呼んでるの。家はハウスでしょ。ホームは家庭ってニュアンスがあるから。家庭をシェアする為の場所。

だいたいこんな感じ.....でもね、私....逃げたのかも。シェアホームに。」


悟さんのキーボードを叩く音が止まった。


「陽介がね、マイホームを建てるって言い出してから、ずっと逃げたかった。

そのうち根負けして、家建てて、毎日罵声浴びて会話もない家庭でカイを育てて。

私が悪いんだっていつしか思うようになったらって、怖くなって、シェアホームで他人の目が欲しくなった。さらけ出して、ジャッジして欲しかった。私は間違ってないって。

裁きの家.....夢の家じゃない。

今はさらけだすのが、こんなに大変だったんだって悪戦苦闘。

ふっ......こんなの記事に出来ないよね。話しすぎましたね。わたし......。」


 話してるうちに私は涙ぐんでいた。カイを産んだ日を最後に私は泣いていない。

静かに、涙が引くのを待つ私。冷静に.....。


悟さんはそれを邪魔した。ぎゅっと私を抱きしめたの。


「知ってたよ.......綾から依頼もらった時から」


「......」


「話す素振りで分かるよ。綾のことなら.....。俺はそれから本当に奪いたいって思った」


私は何も言えなくなった.....。私の歪んだ感情も不幸せも見抜かれていたなんて。


「綾は悪くない、綾は間違ってないよ.....」

悟さんはソファに座る私を抱きしめたまま。

私の顔を見て少し驚きながら男性のわりにしなやかな指で涙を拭いてくれる.....。


私は泣き顔なんて人に見せないから恥ずかしいのでしょう。

涙を浮かべながら照れ隠しに、にこりと笑ったの。

悟さんも笑った。悲しそうに笑った。


私の涙を拭った手を添えたまま、また唇を奪いに来る。何度も。

私はシェアホームににげても、浮気に逃げたら負けだと思うの.....いくら元たらしでもね。


そっと悟さんの口づけをかわし、またハグした。

でも悟さんは、私の頭を持って首すじにキスをする、私はまた悟さんを押し離す.......。するとまた唇に吸い付いてくる.....あぁどうしよう。このままじゃだめ.....。


頭とは裏腹に、私は情けないことに「ん ぅ....」と声が出てしまった。

それを聞いた悟さんは止まらない.....。肩あたりに置かれた片手もするすると下りてくる。

いよいよ大事になると、感じ私は強く彼を押し離した。


涙があふれた。だって、だって本当はこのまま愛してほしいから.....。


「綾.....綾ごめん。強引すぎたね。でも.....いや。」

何か言おうとしてやめたみたいな悟さん......。


私は涙を拭い、また笑ったの。

「悟さん、私、般若を懲らしめるまでは戦うつもり。だから中途半端にあなたを利用したくない。あなたを共犯者にしたくない。」

「はんにゃ?」

あ!っ。


何となくわかったような悟さんが言った。

誠実な顔であらたまった優しい顔でね.....。

「分かった。一線は超えない。でも二人だけの時、こうやって抱きしめてキスするのだけは許してほしい......」


キスするだけ?!ここは日本だし....。私は戸惑います。それはもはや浮気では?

でも許したい.......。でも許したら、その安らぎに甘えて般若討伐から逃げちゃだめだわ。



私は悟さんに近づき優しくキスした。

「.....許す。共犯ね。」


そうこれが私よね.....。

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