言わぬが花?

 私達はシェアホーム着工前にお茶会を開きました。女性陣たけで。

お互いの夫婦事情アップデートも兼ねて。

私達は近所の公園ママ友なんです。でも不思議と初めからお互いの名前を確認し呼びあいました。

〇〇ちゃんママ、〇〇くんママじゃ、個人として付き合いにくいから。ママじゃなくて、いち女性として友達になろうとしたのです。気づけば子供の名前や苗字の方がうる覚え。


「魔法みたいに、いきなり明日完成しないかな?シェアホーム」

あこがいつもの勢いで言います。私はこの人の奥様臭ゼロ、限りなく素に近い童心にかえったような発言が気持ちよくて大好きなのです。


「かずぴは?大丈夫?その.....」聞きにくいけど聞くしかないので私は聞きました。


「一応旦那も一緒に住むって〜みんなリアルタイムで浮気夫の行動見えるねっ。」

私より5歳上のかずぴ。愛嬌いっぱいの笑顔で年下旦那の浮気ぐせを容認。浮気.....なんだかむず痒くなる言葉。ついこの間まで無縁な言葉。


「うちだったら、子供従えて問い詰めるけどな〜」

2児の母みのりが、笑わしてくれます。


 ふと、ゆりが何か口から出そうで出せない素振り。

「なに?ゆり。なんかあったんけ?」

あこ姉さんがすかさず、つっこむのでした、なぜか博多弁で。


「私、実は....私がつい、浮気.....」

「えーーっ」タコみたいな口をするあこ。


「浮気って。どこまでが浮気?」あっ食いついてしまいました私。


「これで、浮気妻も見れるのね」かずぴのブラックジョークも飛びます。


「同窓会で、元カレに会ってそれでそのまま」

「そのまま?」あこがゆりを逃さない

「やりました。宿泊先のホテルで」すんなり言ったゆりに、またタコが出た。


「それはワンナイト?継続?」

「わからない。遠いから。」

そっか、遠いから。私はすぐそこに居ます。浮気とは呼べないかもしれませんが気持ちは充分浮つきました。

これからシェアホームを築き、そこに自分の部屋も欲しいという人。


「般若は?どんな感じ?」あこが話題をかえました。

「うん。相変わらずね。出張が増えたかな。きっと皆さんうちの表と裏の温度差に驚くでしょう。仮面夫婦ぶりに。」

「なにその予告みたいな」

あこのおかげで、笑い飛ばせる会でございました。


 夜 般若がシェアホームについて話してきますが、私は気が気でないのでした。

昔から私に言い寄る殿方を全て斬り捨てた般若は、そっち系に関してだけは洞察力があります。

ましてや、般若には私と異性が話しているのを見れば気がある無しは一目瞭然のよう。


 まっ、それも遠い昔の話。もしかしたら今は興味のきょのじも無いかもしれません。

現に私がそう。もし私の目の前で般若がだれか他の女性と行為に及んだとしても、平気な自信がございます。

あっ、生々しいですが極端な話そのぐらい冷めていますの。あっいけない。また般若の話きいてませんでした。


「おい 聞いてんのか?」

「あっ何?」

「もーいいわ」

怒らせたようですね。


 翌日悟さんが店に来るからと、何故か般若から連絡がきたので、私は夜カイは母に預けて店に行きました。

既に悟さんと般若が並んで座っている。自分の店がまるで般若に支配されそうで嫌な苛立ちが。


 それよりも、私!大変なことを.....般若の隣にいる殿方との熱いキス....。だめだめ。思い出したら般若に読み取られてしまう。

私はいつもどおりに徹します。

「二人ともお揃いで」.....悟さんの眼鏡の奥に光る目がいつになくせつなくみえる。


「悟に挨拶しようと思ってな。悟先生!」

「俺はお受けできて光栄ですよ」

さすが悟さんは、般若との付き合いが長い分普通に会話します。


 しばらくして、悟さんがまさかの発言を

「俺もさ.....そういう暮らし夢なんだよ。デザイン考えながら羨ましいなぁって。友達とシェアする空間、生活の一部。」


「悟!悟も入るか?」

まさかの発言は、般若でした。


「え?俺だけ独り身おかしいだろっ」あぁ悟さんはやっぱり大人。大人な対応.....ですよね。


「でも、仕事部屋としてならありだな」

え?今なんとおっしゃい?


「じゃ図面変えろよ。ひとつどっかに一部屋。」

般若は酔ってるのでしょうか。


 般若の酒癖はとても悪いのです。私は結婚当初、飲んだら帰ってくるな宣言をしたほど。ありとあらゆる人に悪態をつくのです。タクシーの運転手に絡みずっと罵声を浴びせた時は私が無理矢理タクシーを降り般若も降ろしたことも。

今日も早く退散したいところ、でも今は私の店、悟さんを放置して帰るわけにも。


 酔っ払い般若はタクシーで家に返し、私はカイと実家で泊まることにしました。悟さんが実家まで送ってくれるといいます。大丈夫でしょうか。私達.....。

タクシー呼びますか?というジュリーの呼びかけをスルーし、悟さんは私と店を後にします。

実家は店から歩いて.....1キロ以上ありますので15分20分あたりでしょうか。

幸いにも今宵は酔ってません。


ゆっくりと歩く悟さん。何か言おうと考えながら歩く姿はとても微笑ましいのです。

「本気かな。陽介。」

「部屋のこと?」

「うん」

うんといった横顔は、どこか浮かれた少年のよう.....。

「さぁ酔ってたから。」

「最上階の片隅はどうかな。俺が使わなくても綾の仕事部屋にもなる」

「あ.....そうだね。」

「あいつさ、俺の事全く警戒しないのかな。綾を奪うかもしれないのにね。」


 昔の私なら、じゃ一度奪ってみる?なんてセリフが飛び出したでしょう。


「悟さんはそんなことしないと、私もそんな勇気ないと思われてるんじゃないかな」

「ふっ」

少し笑ったその声はどんな感情からでしょう。


「あっもうすぐ着いちゃうなぁ。」

悟さんは公園に向かうのでした。

草が生い茂る中にあるベンチに座り、こちらを向いた悟さんが

「こないだのは謝らないから。」

「あ....うん」

「綾がいいなら我慢しないから。あっ良いわけないよな。何言ってんだろ。」


 いいよと言いたい。言いたいのです。私はどうして人の妻になったのでしょう。こんな人が近くにいたのに。


私の頭をくしゃくしゃとした悟さんは

「ごめんね。困らせたね」

メガネの向こうで切ない目をしていた。


 謝らないで。私は必死に理性をたもつ獣のようなものだから。

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