幕の上がる前に3

「べらぼうに痛てぇ! 背中ついてる!?」


 男の背中は健康を体現していた。しかも産まれたての赤子のようにすべすべてしていた。


「あ、あぁ、ありがとう。すべすべである意味無いけど」


 どうだった? 台本なしの割には中々上手く行ったと思うが。


「なんで加護剥奪したんだよ! おかげで背中めっちゃ痛いんだけど?!」


 嫉妬の怪物だからな。なんか奪っといた。それに冒険物の癖に加護のせいで主人公絶対死なないのはどうかと思った。


「だ~か~ら、良いんだよそれで! 安心、安全、暗い話無し! リアルはただでさえ暗いんだから、妄想ぐらいは許してくれよ」


 しかし、奪ってしまったからにはな……


「じゃあ、宝石身につけて加護とか言うやつ復活しよう」


 まぁ、それで良いか。


「あとお前、優越体験どこいった?」


 安心したまえ、蛇がそっぽ向いたのは王直属騎士団が蛇に攻撃したからだ。バッチリと倒した所を見ている。


「それなら良いけどよ」


「あと、こんな苦戦しなくて良くね?」


 割とガバガバにしたつもりなのだが。足だけで蛇を登攀するなんて有り得ないし、加護バリアが強すぎてピンチ感ないし。


「あと、大蛇から聞こえてきた声はなんだよ? よく分からねぇ文章始まりやがってよ」


 あれは私のアドリブで作った文章だ、私も少し好き勝手やりたくてな。


「クッサ」


 その朝、男が目が覚めると自分が害虫になっている事に気が付いた。


「プキィ、プキィプキィ!」


 その家に勤める女中はその害虫に気が付くと悲鳴をあげながらも叩きのめすべく火かき棒を手に取った。


(マジゴメン辞めて!)


 その瞬間その害虫は元の男の姿に戻った。


 ついでに女中は爆発四散した。


「ごめんて、そんなすぐに描写しないでくれよ」


 私もカッとなった。


「で、この後はどうする?」


 主人公が気絶している状態でカットに入ったからな、次は誰かに介護されている状態でカットを空けることになると思う。


 蛇に攻撃を加えた騎士団辺りに介護させて起き次第に事情聴取、数日間の拘留の後に王と謁見だな。


「冗長。長すぎ、起き次第王との謁見で良いよ。それに騎士団は女でそれに看病されよう」


 王に会うのにおいそれと身元不明を合わせるとは思わないし、騎士団なのに女なのは明らか可笑しいが。


「馬鹿野郎、お前男女差別を是正しようとする団体にタコ殴りにされるよ? 職業で性別を固定するなんて」


 そうか? 


「ついでに騎士団のその女に好意を持たせよう」


 何を理由にだ?


「知らん、好感度をちょちょいって弄ってくれ」


 私の描写能力で物語を弄ると可笑しくなってしまうが…


「気にすんな、一目惚れなんて便利な言葉があるだろ」


 流石にそれは…


「時間が無いから決定で」


「その後は王の勅令で七つの大……じゃなかった、罪業を倒しに行くでOK?」


おおよそはそのような感じで良いだろう。


「冒険には仲間が必要不可欠だと思うんだけど、お前はどう思う?」


そうだな、やはり冒険やファンタジーと言ったら仲間は必要不可欠だろう。一人で戦う冒険譚を私は見たことが無い。


「桃太郎ですら仲間引き連れている訳だしな」


人数はどうしようか? 私としては大体3人ぐらいが丁度良いとは思うのだが。


「さっき言った女騎士団とテキトーに阿保を召喚しといてくれ。それこそ猿ぐらいの知能にしよう」


優越体験のため……だな?


「そうそう、仲間が優秀だったら人を引き寄せる魅力なさげな主人公が更にカスくなる」


仲間を増やすことは容易いがそのサブキャラクターはどのような設定にするかだが……。


「……悩んでいる所申し訳無いんだけど、あのゲージは何すか?」


あれは時間通過ゲージだ。話合いが多くなると思って私が空間に生やしておいた物だ、ゲージは下から上がっていき最大に達したら開幕の合図だ。


「ほとんどマックスに見えるけど……?」


……やばっ、キャラはこちらで大急ぎで作っておく!


ヒロインも流用だ! 演じる予定だった現実恋愛ハーレムのキャラを騎士団長に与えとく。


お前もすぐに準備をしてくれ。


「なんとかなるでしょ」


呑気でむかつくな、貴様は!

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