第25話 199X年 8月 3/4

 ゆっくりバスタブに浸かり、昼間の疲れを綺麗に洗い流す。後に入った絵未がバスローブに身を包み浴室から出てきたところで、俺は重大な失敗に気がついた。


「やべっ! ホテル入る前に、酒、買ってくればよかった!」


「……どうして?」


「こーいう所の酒は高いんだよ。……あちゃあ、失敗したなあ」


 それを聞いた絵未が、ジト目で言い放つ。


「あらあら。ラブホテル事情にお詳しい事で……」


「ま、またそう言う意地悪を……まあ、仕方ないかぁ。せっかくの旅行だし、今日はとことん飲むって決めたんだ。ケチケチしないで飲もう」


 その言葉に応える様に、絵未が自分の胸に拳を打ちつけた。


「よし! ここは絵未さんに任せなさい! いっつも武志くんに奢ってもらっているんだから、ここの支払いは私が持つよ!」


「えっ……悪いよ。それに絵未ちゃんバイトだし、俺の家に来るためにシフト週四に減らしてるんでしょ?」


「うん。シフト減らしたけど、その分早〜中番の通しシフトを多めに入れてるから、バイト代はあまり変わらないよ。それに絵未さんは先月、時給がアップしたのです」


「え……そうなの。ちなみに今いくら?」


「今、時給1,250円です」


「……は、はぁぁぁぁぁぁぁ!?」



 本店のバイトの基本時給は850円だ。それが……1,250円……だと!?

 そういえば、2号店にいる時に聞いた事がある。あの支配人は気に入ったバイトの子の時給は、バンバン上げまくっているとか。


 俺なんて週一休みの一日9時間勤務(サービス残業30分あり)で手取り20万弱だぞ。


 ……もしかして絵未、俺より高給取り!?



「そんな訳だからお金の事は気にしないで、楽しく飲も。ね?」


「う、うん……じゃあ、今日だけはご馳走になるよ」

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