第46話/裏切

「お前が俺を呼んだのか?」


上空から飛んでくる一人の男。

茶髪にサングラス、黒いコートを着込む姿はさながらビジュアル系バンドの様に見える。


「よく来たな、範獅」


と、鹿目メルルはそう男の名前を口にする。


「お前が記憶に情報を送り込む眼球を寄越して来た時は驚いたぞ、まさか生きているとは思わなかったからな」


そう男は言った。


「あぁ、話した通りだ。私は逃げて此処まで来た」


話し?いったい、どんな事を話していたのだろうか。

その内容が気になった俺は少しだけ顔を上げた。

まあ、顔を上げた程度で何か分かるとは思わないけど。


「で、どんな情報だ?お前が生き延びてでも届けたかった事とは」


男は近くに生えていた森林の大木に向けて蹴りを放つ。

すると、根本から切断されて、木が倒れた。

その上に座り、ポケットから取り出した煙草にライターで火を点ける。


「あぁ、これは交渉だ。まず、この情報を引き換えに、私をまた門叶派に戻して欲しい」


「……話が見えないな?お前は門叶派に属して居るだろうが」


「この場合、門叶派に戻して欲しいと言うのは、失敗を取り消し、無条件で何時もの配下として迎えて欲しい、と言う事だ」


少なくとも鹿目メルルは自分が失敗してしまったと思っている。

だから、なんとか取り入って、元に戻してもらおうと言う内容だった。


「……まあ、俺が出来る事はなるべくしてやろう。で?なんだ、話は」


その口調はあまり信用ならない様子だった。

それでも、鹿目メルルは頷いて口を開く。


「伏間昼隠居は生きている。そして、その茂みに隠れている」


っ!?

な、そこまで情報を流すのか!?

俺は聖浄さんと目を見合わせる。

まさか、あの女、俺たちを見捨てるのか?


「なんで、そんな場所に隠れているんだ?」


「私は奴らの配下になっている。門叶派に戻して欲しいと言う交渉は、私に主従関係を結ぶ輩を斃して欲しいと言う意味も入っている」


やっぱ、アイツっ!

俺たちを裏切るつもりかっ!


「あぁ、だからお前、そんな服を着込んでいるのか」


「……そうだ、あまりジロジロ見るな」


そう言って、男が俺たちの方へと近づいてくる。


「さて、本当に居るかどうか……」


茂みの方に近づいて。

俺は、拳を握り締めた。

術具を所持していればよかったと後悔して、聖浄さんと顔を見合わせる。


「やりますよ、良いですね」


「……待ってください」


しかし、聖浄さんは俺が出ていく事を良しとしなかった。

そして、男が接近して、茂みの中を確認した。

そこで、俺と聖浄さんの顔を見た。


「こりゃ驚いた、本当に生きてっぇ!」


そして……男は背後から殴られた。

鹿目メルルが、その手に石を握っていた。

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