第39話/別視点・招集


とある迷宮の深部。

ある崖にぶら下がる様に建てられた一つの施設が其処にある。

数多くの部屋の中でも、より広く、壮大な空間に、椅子が置かれていた。

席は二十よりも多く、円卓を囲む様に置かれている。


「峠獅が死んだな」


一人の男が呟いた。


「兄者よ、気配を察したか」


「ふん、あの恥晒しめ」


容姿は違う。

雰囲気すら違う。

それでも、彼らには血が繋がっている。

兄弟であった。だからか、血族の死を何となく察していた。


「所詮、奴は豹原四兄弟の末子」


「奴は四兄弟の中でも最弱だからな」


彼らは豹原家。

その代表、長男・統獅とうし、次男・纏獅てんし、三男範獅はんし

招集が掛かった為に、この円卓の間へとやって来た。


「鹿目ちゃんも、帰って来ない……殺されたのかなぁ?可哀そうにねぇ」


根暗そうな男がそう呟く。

その手には、プロマイド写真が握られていて、それに話し掛けている様にも見えた。

形登なりと家代表、形登なりとひとり

趣味はドルオタであると聞く。


「(あの馬鹿娘が、儂の立場を危うくさせよって)」


深く皺を刻む老人が保身に走った心理を呟く。

鹿目家代表、鹿目かなめ馬老ばろう

そしてその代表の付き人、鹿目かなめらん


「皆さまお静かに、門叶様が来ますわ」


凛とした口調で芯に響く様な声だ。

メイド服を着込んだ女性が、今にでも意識を失ってしまいそうな細い目で周囲を見渡した。

冥送家、その代表とされる冥送めいそうめぐり

そして、彼女の隣には、漆黒の宇宙服を着込む男性が居た。


『ご機嫌用、お嬢様』


暈宕家代表、暈宕泰心。

部屋の中に入り込む女性に向けて、そう挨拶を行った。

椅子に座る前に、銀髪の少女、門叶祝が周囲を見渡す。


「……殯贄もがりにえが居ないんですけどー」


その言葉に沈黙が訪れる。

今回の招集は全員参加だ。

一人の欠員すら許されぬ状況で、許可も無く不参加者が存在する。

殯贄と呼ばれる転移術師だ。


「申し訳ありません、すぐにでも招集を」


取り繕う様にメイドが言うが、門叶は両手を広げる。

ビクリと体を震わせるものがいれば、身構える者も居る。

それら多種に渡る行動を確認した後、彼女は大きく手を振った。


「もう、いい……ほらほら、さっさと来て、殯贄」


そして、ぱん、と音を鳴らして彼女は手を叩く。

しかし、反応が無い。門叶祝は軽く息を吐くと。


「殯贄、死んでるみたい、確認しに行って?」


そう言った。

誰が、とは命令しなかったが。

即座に、全員が椅子から立ち上がり、施設から出ていく。


「でもまさか、あの人攫いが死んじゃうなんて…誰が殺したんだろ」


椅子の上に座り、肘をつきながら、足をブラブラさせて考える。

なんとも締りの無い緊急招集であった。

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