第28話/二人

「伏間くん、これを」


空間から取り出した巻物を俺の方に渡してくる。

それを俺は受け取って確認した。

手に馴染むそれは見なくとも分かる。


「『廻廊記紙たいきょくず』……」


「私はもしもの為に両手を開けています。先導は伏間くん、貴方が」


俺は地図を開く。

古都の地図が瞬時に現れて、俺は周囲の情報を確認する。


「……っ」


なんだこれ。

俺は地図を確認して、一直線にこちらへと向かって来る『師』の文字がある。

これは恐らく、鬼童膝丸なのだろう。

だが、これは………なんだ?

まず、俺たちの周囲には『具』と言う文字が十数個ある。

そして離れた位置には『師』と言う文字が二つあった。

即座に俺は周囲を確認する。

……何もない、いや……目を凝らして見れば、微かに、空の模様が少しだけ可笑しい。

普段と変わり無い鉛色の空ではあるが、しかし、その鉛色の空を擬態する球体が浮かんでいた。

恐らく、それが『具』と言う文字の招待なのだろう。


「聖浄さん、なんだか、周囲に術具らしいものが浮かんでます」


そう言うと、聖浄さんは周囲を見渡して目を細めた。


「……確かに、反応があります。しかし、遠い……」


聖浄さんは、術具を理解する事が出来る眼鏡を装着していた。

それでも、聖浄さんが注視しなければ術具を強調する事が出来ないらしい。


「この眼鏡は接近であればあるほどに、術具の情報を見る事が出来ます。逆に言えば、遠くにあればあるほどに、情報の取得が難しくなるのです」


そう説明してくれた。

便利そうで、中々使い勝手が難しいらしい。


「聖浄さん、どうしますか?」


「取り合えずは逃走を重点にしましょう。安全地帯はありますか?」


そう言われて俺は地図を確認する。


「……右の方の建物から進んで行きましょう」


建物の内部には何も居ないと地図上ではそう表示されている。

聖浄さんは頷いて走り出す。そして建物の中へと入ろうとした時。


「ッ!」


遠くに居る二つの『師』が動き出した。

しかも、その移動は早く、確実に俺たちの居る場所へと接近している。


「待って下さいッ!聖浄さッ」


そう最後まで言うよりも早く。

空から降り注ぐ、一筋の光が、聖浄さんの腹部を貫いた。


「っ、ふぐッ!」


建物の入り口前で倒れる聖浄さん。

俺は、倒れ込んだ聖浄さんを心配して接近する。


「聖浄さん、大丈夫ですかッ!」


しかし、聖女さんに接近するよりも早く、俺の体は吹き飛ばされる。

『師』と言う文字の一つが、超高速で移動して来たのが見えた。

そして、現実では、一人の人間が高速移動して俺に向けて突撃して来たのだ。

衝突の勢いを殺せず、俺は地面を滑る。

痛みを感じるよりも先に、体を起こして、俺に攻撃をしてきた輩を睨んだ。

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