第13話/森林

灰色の空が印象的だった。

森林が生える空間は、迷宮とは言い難い場所だ。


「……地図を見るか」


ベルトに挿した『廻廊記紙たいきょくず』を開く。

細い通路は見当たらない、木のある部分は地図上では穴として再現されていて、周囲には多くの『象』が書かれていた。


「危ないな……」


『本当ね……ふぁ』


脳裏に響く声。

俺は周囲を見渡して、そういえば夢現の姿が無い事を思い出す。


『子作りをしたら、なんだか眠たくなっちゃったわ………夢の中に引き籠るから……頑張ってね?ぱぱ』


その言葉を最後に、俺の頭の中には何も聞こえてこなくなった。

……夢の中に引き籠るって……今後は出てこない可能性もあるのか。


「……建物があるな」


森を抜けた先に教会らしき建物があるのを地図が描いている。

『象』を避けながらそちらの方へと向かっていく。

……しかし、腹が減って来たな。

森だから、何か生えているものでもないだろうか。

そんな事を考えながら散策していると。


「ん?」


地図を確認して遠くを見る。

『象』が七つ、『師』と書かれているのが一つ。

そしてその地図に位置する場所に目を向けると、誰かが戦っていた。

まさか、人か?俺は近づこうとして足を止める。

もしも、門叶祝の息が掛かった人間の可能性がある。

出会わずに逃げる、と言う行動が良いのかも知れない。

そう思った矢先だった。遠方から何かが飛んでくる。

それは、人の様な姿だった。毛むくじゃらで、頭の天辺に耳が生えている。


「ぐ、るるるるッ!」


体勢を整えて俺に向けて牙を剥く。

それは狼男だった。


「運が悪いな……」


俺は肩からぶら下げた三節混を構えて狼男と戦闘しようとした。

その時だった。上空から落下する得体の知れない何か。

狼男の頭部を破壊する一撃が放たれる。

……それは、十字架だった。銀色で、盾の様にも見えて、杭の様にも見えた、人を磔に出来る程に大きな、十字架。

十字架の根本は、赤く染まっている。

大槌の様に、生物を叩き潰した為だろう。


「貴方は何者ですか?」


それだけでは無かった。

上空から落下して来たのは、十字架と共に付いて来た、修道服を着込んだシスターの様な女性だ。

茶色の髪が靡き、眼鏡の奥底から獣の様に鋭い視線を此方に向ける。

俺は三節混を構えたまま、彼女の目を見詰めていると。


「もう一度聞きます。貴方は何者ですか?返答次第では……」


重たそうな十字架を上げる。

言葉を間違えれば、それで叩き潰すつもりなのだろうか。

俺は慌てて、彼女に敵意は無い事を告げる。


「俺は敵じゃない……少なくとも、あんたの方が敵の可能性がある」


そう言っておいた。



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