第7話 6-帰路への旅路
葵は訓練を済ませ、マノーリアとマノーリアの部屋でテーブルに座り作業をはじめる。他の騎士団の面々は、梔子のスペシャルメニューの餌食になったが、基本的な訓練で免れる事ができた。本来基本訓練は、部隊に関係なく全体で行うが、今回は、マノーリアが昨日、柴崎から譲り受けた、魔法ブレスレットの葵の分を、詠唱を読み込ませたいとの理由で、免れたのである。梔子や他の騎士団も、マノーリアの意見に反論できない理由があり、それは明日の昼に、このラストスタンド王国の滞在が終わり、次の訪問先のストロングシルド帝国へ、向かう日だった為だった。移動中でもできないことはないが、何かあった時の為に、葵自身が魔法を使える事は、誰も異論がない為、ふたりは別メニューとなった。マノーリアの部屋に到着し、マノーリアは、ブレスレットをテーブルに置き準備をする。
「葵くん、ブレスレットに魔力は充填できているわ、これから魔法詠唱して、ブレスレットに読み込ませて行くわね。ただね、守星国際法でヒールとエマージェンシーとプロテクションは、必ず読み込ませなければいけないの!それからはじめるね」
ヒールは回復魔法。エマージェンシーは救援魔法。プロテクションは防御魔法。3魔法ともに低魔力で、この世界では、幼児が子供達だけで出歩くようになる頃には、躾として覚えさせる程度の魔法らしい。モンスターなどに遭遇し、襲われた時の最低限魔法とのことだ。この魔法が御石に読み込まれてないと、街からは出れないようになっている。マノーリアがヒールの呪文の詠唱をはじめる。
「"最高神アマテウスよ、君が授けし我が魔力ちからを源に、自然の理をなきものとし、傷と病を癒せし光として顕現させたもう、神無月葵のこの魔法具に力を貸したもう。願い届けし叶うは、心深しき君への信仰を深くさしめし"」
石が淡く光静かに消えていく、葵は呪文というよりは、女神へのいのり?いや神頼みだ。要は、"女神様、魔力使うので、自然科学的物理とか根拠を全部無視して、ケガとか病気を治して下さい、そしたら女神様の事をもっと信じます"とマノーリアは言っていた。葵は、この世界の神様はずいぶんと寛大な神様ですね。と思いつつ、今年の初詣で元カノ行き。今年もふたりで、たくさん思い出つくれますように、と神様にお願いしたのと元カノは言っていたのに、その数ヵ月後、別れると言われたのを思い出した。あっちの神様は、5円くらいのお賽銭では、彼女の願いは届かない上、別れる試練まで与えられた。葵はものふけるように、遠く見つめる。
「葵くん、あおいく~ん!聞いているの?全部終わったわよ!」
「あっ…ゴメン…ぼっーとしてた」
「何…考えてたの?」
「えっ?なんで?」
「なんとなく…葵くんがせつなそうな顔に見えたから…」
「別に、そういう感情はまったくなかったけど、ちょっと昔の事を思い出して…」
「あちらの世界でのこと?」
「そうだけど、たいしたことじゃないから、魔法の説明をしてほしいな?」
「あっ…そうね!じゃ説明し…します」
マノーリアは、何か聞きたそうにしていたが、魔法の説明はじめる。
今回、ブレスレットに読み込ませた。魔法は10種類で、回復2・回避2・防御2・攻撃4にマノーリアは振り分けた。
回復・ヒール/マルチプルヒール
回避・エマージェンシー/エスケイプ
防御・プロテクション/ディフェンス
攻撃・サンドブラスト/フレイムサークル/ウィンドウクロウ/ライトニングアロー
「それでは、ブレスレットをはめてみようか?自然と魔法がどうすれば顕現するか、わかると思うわ!」
「左手はガントレットを装備するけど、はめらるかな?」
「利き腕だと、わずらわしかもしれないけど、慣れれば気にならないと思うわ」
葵がブレスレットをはめると、葵は以前から、魔法が使えていたように、どうすれば良いのがわかる。魔法名も消費量も理解できる。ふと葵は疑問に感じマノーリアに質問する。
「マニー!10種類で良いんだよね?」
「えっ?そうだけど…足りなかった?」
「いや、11種類ある…」
「そんなはずはないわ!」
「マニーに説明してもらったのは、全部あるんだけど、もうひとつ聞き覚えのない、リンクっていうのがあるね。」
「えっ!?そんな魔法わたし読み込まれてないし、そもそも聞いたことがない魔法だわ!魔法階層は?」
「低魔法だね…使ってみる?」
「どんなものかわからないから、調べるまで少し待って?」
「あっあ~…じゃそうしようか!じゃ他の魔法を為仕打ちするのと、マニーにお礼しないとね!何がいい?」
「えっ…ベ、別にそんなお礼だなんて…それじゃぁ~聞いてみたいことあるんだけど…?」
「そんな事で良いの?別にかまわないけど…」
「じ…じゃぁ…聞きます。ふ~、え~と、ぁ、葵くんは、あちらの世界で思い人とか恋人が、いたんですか?」
マノーリアは緊張したように深呼吸をし、決心するように質問した。
「いないよ…正確に言うと、この世界に来る前に、別れたかな…こんなんで良いの?」
「えっ!?あの…今でもその女性の方を思ってる?愛してますか?」
「愛してるか~…それはないかな、彼女から別れようって言われたとき、その方が良いなぁって思ったし、未練みたいな物はないよ。こっちの世界に来て、一生戻れないなら、今一番会いたいのは家族だよ!」
「そ、そうなんだ…ごめん…家族に会えないのはつらいよね…」
「なんでマニーが謝っての?戻れないって決まった訳じゃないし、転移がなんなのかわからないけど…毎日、騒がし面々と生活してるから、家族の事も忘れてたょ…さっ!魔法の試しうちしに行こうよ!」
ふたりは、演習場に行きリンク以外の魔法を顕現させ成功させた。その後昼食をとりに食堂に行き、梔子と合流した。
「魔法具は問題なかった?」
「バッチリ!ただひとつだけね…」
「クーは、リンクって魔法聞いたことがある?」
「リンク?…聞いたことないね…それが葵くんのブレスレットに?」
「そう!ただ不思議なことに、マニーが着けると出てこないみたい…クーも着けてみて」
「どれどれ?…あたしも10種類しか出てこないね…」
3人のところへ、白檀も加わってきた。
「何話してんだ?」
「団長…リンクって魔法知ってますか?」
「リンク?知らねーな…直哉のとこでなんか入れたとかじゃないのか?」
「その線もありますね…でも俺にしか見えない魔法…なんて作りますかね?」
「確かになぁ?その線は薄いか…念の為確認しておくか~」
白檀は、近くにいた騎士に、バルーンフルーツ社へ行き、確認する指示を出した。
「図書館に行って調べるか、魔法協会に行ってみる?」
「どんな魔法かわかんねから、やたらに情報出すのもな?つかっちまうのが早くね?禁忌魔法でもねぇーだろ?」
この世界の魔法は、禁忌魔法の場合は術者に警告が脳裏にハッキリと告げられる。リンクは葵が顕現手前まで意識しても、問題なかった。
「じゃ~やっちゃいましょうか?」
「葵くんまで…」
マノーリアと梔子が唖然とする。
「念の為、外だな!」
4人で演習場に行き、安全策をとる為、葵以外の3人はプロテクション・ディフェンスの2つ防御魔法とマノーリアが高魔法の一定の範囲に見えない壁を作るレンジプロテクション使用した。
「葵!いつでも良いぞ!」
「わかりました。行きます!"リンク"!!」
演習場に静寂が広がる。
「なんなんでしょう?この感じ…」
「葵くん何か変化あった~?」
「何か感覚的に紐が結ばれたような?線がつながるような…」
「まぁ~特にこちらに悪影響もなかったなら、様子みるしかねぇだろ?」
「魔法を生み出したのは女神ですから、葵くんのためになる、何かを授けてくださったってことかしら?」
「あれ?リンクがなくなってる…」
「一度きりしか使えない魔法…?」
謎の魔法に、4人全員が疑問符を頭に浮かべているところに、白檀に伝令担当の騎士が声をかける。
「団長!本国より、皇女様より伝令が届きました。」
「皇女様はなんと?」
白檀は騎士より、書簡を受け取り内容を確認する。騎士は敬礼し戻って行った。
「葵を保護したことを、環に報告したんだがその返答だ。お前達は、帝国に同行せずに、国に戻れとの事だ。まぁ~環も心配なんだろ、他国を連れ回すよりは、早くこっちに来いって事だろう」
「帝国にわたしとクーが入国することは、伝えてあるのでは?」
「皇女様の急用で王国から戻ったって言えば問題ない、それに帝国に用があるのは文官であって、あくまでも護衛だ、問題にならんだろ。クー!斥候隊は、お前以外は連れていく。引き継ぎはしておけ、街道の分岐街までは、一緒に行ってくれ!マニーと葵も斥候隊の連中と連携とれるようにな」
3人は斥候隊の部屋へ向かう。斥候隊は隊長の梔子を含めて、12人で構成されている。主に偵察・監視・調査・調整を任務としている。3人で行動することが多いが、威力偵察やダンジョン調査などは隊全員で任務を行うこともある。今回は、街道周辺の偵察と分岐の街へ行き、騎士団が訪れる旨の調整を行うのが任務となる。
「みんな~お疲れ~!」
「クーお疲れ~!」
「隊長お疲れ様です!」
「明日の任務に変更点ができたので、ミーティングするよ~。マニーと葵くんが明日同行することになりました。で~わたしは帝国行かずに、皇国に帰えることになりました~!」
梔子が隊員を召集する。
「なので~編成を変更しま~す!マニーと葵くんとわたしが街の調整側に加わるから~咲ちゃんと花ちゃんこっち入って~、で~後のみんなは、副隊長と帝国までの任務よろしく~!」
梔子は副隊長とともに帝国に向かう隊員達と打合せをしている。葵とマノーリアのところへ、咲と花かけよってきた。
「咲ちゃん花ちゃん、こんにちは、明日はよろしくね!」
「マノーリア騎士長!こんにちは、こちらこそよろしくお願い致します!神無月さんもよろしくお願い致します!はぁな!あなたもお二人にごあいさつ!」
「あっマ、マノーリア騎士長・神無月さん、こんにちは~」
咲と花はマノーリアと葵に敬礼をする。
「マ二ーで良いわよ!職位は公の時だけでいいわよ。仲良くしましょ」
「咲、花よろしく!俺も葵で頼むよ…キミたちの方が、先輩だな?」
「いえいえ、葵さん先輩はやめてください。」
梔子の斥候隊は、全員亜人耳の者が配属されている。猫耳シャイア4人・犬耳シェンイア4人・狐耳ルナリア1人・兎耳ラパニア1人構成されている。咲は猫耳シャイアの持ち主で、瞳は水色で茶色の髪色で長い髪をツインテールにしている。花は兎耳ラパニアの持ち主で、瞳は赤でクセのあるクリーム色だが、淡くピンクがかっている。マノーリアも同様だか、この世界の人は、魔力の属性が御石と瞳に色としてでるが、髪色に影響する事もある。ふたりは2つ違いの姉妹である。
「咲と花は武器は何を使われるのかしら?」
「わたし達姉妹は、基本的に弓を主装備にしていますが、わたしは前中衛なのでショートソードとの使い分けています」
「あたしは後衛です。弓と周辺状況の傍受担当しています」
「咲ちゃんはあたしのバティをしてもらっているよ~咲ちゃんは誰とでも連携をとるのが上手だから、あたしがいない時に、他のメンバーとバティしても器用にこなしてくれるからね。花ちゃんはうちの隊の耳だよぉ~ちなみに花ちゃんは、あたしとマノーリア以来の徴兵免除の騎士見習い、まぁ~見習いとは書面上で既に隊の核だけどね」
「そうなると、クーと咲ちゃんが前衛で、わたしと葵くんが中衛で、後衛が花ちゃんでいいのかしら?」
「う~ん…ちょっと悩んでいるのだけど、花ちゃんは近接が苦手だから、サポ必要なんだよね~いつもは、すみれちゃんがいたからね~どうしようか?」
すみれと言うのは狐耳ルナリアの持ち主だ。今回は副隊長の班に入るので同行できない。
「それなら、俺とクーが前衛でマニーが前中衛で、咲が花のサポートでどう?正直俺はサポートするだけの技量がないから不安だし、マニーがサポートだと、マニーが攻撃に参加できないよね。咲なら弓で後方から援護できるし、ショートソードも使えるなら、サポートも可能じゃない?」
「葵くんの経験も積んでもらいたいから、基本はそれで行きましょう、でも、葵くん約束して!無理はしない事…場合によっては、葵くんはわたしとポジション変更することを約束して!」
「わかったよ!マニー約束する」
「じゃ~決まり!咲ちゃんと花ちゃんも良いかな?」
「わかりました。隊長、マニーさん、葵さんよろしくお願いいたします」
「あたしも、自分で近接も意識するようにします」
「臨時のチームだけど、コミュニケーションをしっかりとっていきましょう!」
「じゃ明日の出発はあたし達が先行で早朝だからよろしくね!ごはん食べいこ!~」
その夜は5人で夕飯を食べ早めに就寝することにした。明朝、まだ日の出の前の薄暗い中準備が始まる。
「おはよう」
「おはようございます!葵さん!」
「おはようございます~葵さん」
「ふたりとも、早いね~」
「斥候隊の朝は早いですからね~」
咲と花はてきぱきと準備をしている。
「みなさん、おはよう!」
マノーリアが3人に声をかける
「おはよう!マニー」
「おはようございます。マニーさん!」
「クーの姿見えないけど…」
「隊長は、帝国班と最終ミーティングしてから来られます。」
「ところで、この馬車引く地竜とかは?」
「葵くん、わたしが同行するから、地竜はいらないの、支獣がいるから、クーのユキちゃんは初日に乗ったでしょ?」
「あ~支獣ね~」
マノーリアのそばに光の粉のようなものが淡く現れ形になる。クーの時と同様に、ペガサスをマスコットにしたような生き物が現れる。
「この子がマニーの支獣?」
「そうよ!おはよう~アリス~今日はよろしくね~」
マノーリアがペガサスを撫でながら答える。名前はアリスのようだ。するとアリスにまた淡い光が纏わりつき姿が変わる。よくファンタジーで見るペガサスに変わった。
「何回見ても、支獣にはビックリするな」
「みんな~おはよー!」
「クーおはよう!」
「おはようクー」
「準備はできた?」
「いつでも出発できるわよ!」
5人で話していると、上空から梔子の支獣が降りてきて、マスコット化し梔子の周りを飛ぶ。
「お疲れ~ユキちゃん。周りは問題ないから、出発としますか~!」
馬車に全員乗り込み、ラストスタンド王国王都を出発する。
「安全圏の間に朝ごはん済ませちゃおうね~」
「街道の分岐の街までは、どのくらいなの?」
「お昼前には着けるよ、ここの川があるとこの橋を越えてからは、周辺調査しながらの移動になるけど、ユキちゃんが空から見てくれてるから、直接確認するのは、ユキちゃんから連絡きたらかな」
梔子は、地図を指し閉めつつ、片手に朝食のサンドイッチを持ち説明する。周辺は平野が広がり、少し奥に丘が見える北と東の方角には大きな山々が連なっており、頭には雪で白くなっている。
「葵さ~ん!質問してもいいですか?」
「かまわないけど、咲は何が聞きたい?」
「そうですね~日本ってどんな食べ物食べるんですか?」
「ラストスタンドみたいなパンも食べるけど、日本はもともと米が主食の国だよ」
王国の食事は南欧料理がイメージとして近い。
「葵くんは、皇国を好きになってもらえるかもしれないわね!ロスビナスも主食はお米なのよ!」
「王国のごはん美味しかったけど~、そろそろ、お米食べたいよね~」
「クーはこれから帰れば食べれるでしょう!咲ちゃんと花ちゃんは、まだ帝国に行かなきゃ行けないのだから!」
「でも、帝国も美味しいもの沢山あるみたいなんで楽しみです~」
「あー!帝国といえば、北の山脈にしか生息しないノースマウンテンバッファローのTボーンステーキが…食べれない…」
「隊長の分まで、食べてきますね~帝国の観光マップを取り寄せてよかった~」
「なんか…クー悪いな…俺が転移したばかりに…」
「葵くんの責任ではないけど、皇国に戻ったら何かしてもらおうかな?」
「じゃ~日本の料理を作ってご馳走するっていうのはどうだ?」
「葵くん、お料理できるの?」
「まぁ~、口に合うかわからないけど、子供の頃から妹達に食べせてたから」
「葵さん、日本では苦労されてたんですね…」
「いや、苦労はしてないね、両親が働いてたから…」
「男の人でお料理ができるなんてステキですね」
「こっちじゃ珍しいの?」
「料理人の男性は別ですが、炊事場は女性の城だから、お祭りや狩猟料理は男性のお仕事ですね」
他愛もない話をしながら、暖かな春の柔らかな日差しの中、馬車は走る。支獣なので、休憩は不要だが特に問題もない為、何度か休憩をしながら、街道を進む。
「後、1時間もしないで着くかな~?」
梔子が皆にそう伝えた時に、梔子が少し体をビクンと震わす。支獣のユキは梔子の精気を元に作られている為、支獣の視覚をそのまま確認することができる。
「魔族の群れが街に向かってる…」
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