第3話 衝撃

「ついさっきだよ。私が来た時には君が、女の子を泣かせてた」

「おい、シエスタ。言い方を考えろ。それじゃ、俺が悪いみたいじゃないか」

全く、この名探偵はすぐに俺を変態やら悪役やらに仕立て上げようとする。

「ふふ、やっぱり君はいい顔をするね。好きだよ、そういうところ」

好き……

「冗談だよ。あれ?どうしたの顔真っ赤だよ」

誰のせいだと思ってるんだ。コイツは、俺をからかうために生まれてきたんじゃないのかと思わせるほどに俺をからかうんだこの女は。

「理不尽だ」

「理不尽なのはボクだよ。急にメイタンテイがやってきたと思ったらイチャつきを見せつけられて。ボクの話がながされて」

先程の涙はもう消えぷくっと、頬を膨らませているヘルがそう言った。

「可愛いな」

「「んっ。」」

うっかり、口を滑らせてしまうとシエスタにマスケット銃を突きつけられ、ヘルにはいつの間にか刀を突きつけられていた。

「ヘル。助手は私が殺る」

「いいや、ボクが殺る」

化け物じみた力を持つ2人が言うと、冗談でも冗談に聞こえない。

「待ってくれ、俺は無実だ。それよりも、ヘルの話を」

「そうだね」

「そうだよ。また話の骨を折られてしまうところだったよ」

どうにか、死の回避と話の軌道の修正ができた。

「じゃあ、改めて」

そういうと。ヘルは一度間をおいた。ここから先のおふざけはなし。そういうことだろう。それはシエスタにも伝わっているはずだ。マスケット銃をしまい。青く燃える瞳で真っ直ぐにヘルをみつめていた。

「メイタンテイさんはみていたかどうか分からないけど、キミの助手に燃やされてボクはついさっき≪聖典≫を失った。あれはボクが、お父様。シードから与えられていたものなんだ」

「シード?」

聞いたことのない言葉が聞こえたので思わず、そうこぼしてしまった。すると

「シードは全ての人造人間の生みの親。言うならば、≪SPES≫の親玉のことだよ」

シエスタが解説を挟んだ。そんな情報、聞いてないぞ。"ほうれんそう"を怠るな。仮にも俺とお前は探偵と助手だろ。

文句を言いたいが今はそれよりもヘルだ。

「そう。≪聖典≫に従うこと、それがボクがシードから与えられた命令だった。しかし、それがもう叶わなくなった今、ボクは≪SPES≫からどんな処分を受けるか分からない」

つまりは≪SPES≫から自分を守れとそう言うことだろうか。だが、だとしたらボクたちとは一体…-

「別に、ボクが殺されるのは構わないんだ。でも、この体にはもう1人の人格が宿っているんだ。ボクは、ご主人様を、ナギサを殺させるわけにはいかないんだ」

「なぎ……さ…」

その名前にシエスタが反応する。聞き覚えのある名前だったのだろうか。なら、ヘルとシエスタはもしかしたら昔、どこかで……

「シエスタ、お前」

その、ナギサに会ったことがあるのか?そう聞こうとシエスタの方をみると

「シエスタ!おい、シエスタ!大丈夫か!」

頭を抱え、ーア、アアーとうめき声をあげている。

なんだ!俺は、俺は一体どうすればいい。シエスタが何に苦しんでいるのか。それは俺には分からない。だが、この名探偵がここまで感情を露わにするところは初めてみた。きっと、ただごとではないことが起こっているんだ。嫌でもそう認識させられる。なら、俺は何をすれば、どうすればシエスタを助けられる。分からない。取り敢えずは近づいて、そう思い、歩をシエスタの方に向けようとすると

っ!!!

再び、ヘルに能力を使われた。どうしてだ。一体、コイツは何を……

「なぎさ!ナギサ!私は……どうして!」

今度はシエスタの叫びが響く。何が、どうなっているんだ。

体はヘルの能力でピクリとも動かない。しかし、シエスタが心配その一心で、どうにか視線をシエスタの方に向けることに成功した。

そうして目に映ったのは、涙で顔を濡らし今なお、涙を水のように流しているシエスタの姿があった。

「ナギサ!ごめん!」

さらに次の瞬間シエスタがヘルに抱きつき

「あの時、君を。君たちを私は守れなかった。なのに、それを…今まで忘れてた。ごめん!ごめん!」

シエスタが何度も、何度もヘルにナギサに謝っている。

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