第7話

 旅を始めて一週間も経てば、ある程度慣れというものが出始める。カバンが重いことは変わらないし、夜寝る時はいまだに緊張するけど。それでも、雪山を歩くことには随分と慣れた。

 夜になるとハクア指導の元、魔力操作の訓練を行う。全身に魔力を巡らせて、まずは簡単な身体強化の練習から始めていた。術式構築はまだハクアに手伝ってもらっているから、毎回手を繋いでいるし、その度に照れてしまうけど。


 そんな感じで順調に旅を進めて八日目の昼前頃に、二人は最初の関門へと差し掛かっていた。


「これは……トンネルか?」

「というよりは洞窟ね。わたしがあの村に行った時も、ここを通ってきたわ。馬鹿正直に山を登って降りていたら、時間が掛かってしまうから」


 目の前に聳えるのは、見上げるほどに大きな山。今現在も雪山の中ではあるが、それよりも更に大きい。ここはあくまで、中腹のあたりだったのだろう。


 そして山の雪や緑が一部剥がれ、岩壁が顕となっているここは、大きな穴が開いていた。ハクア曰く洞窟らしいが、トンネルという表現を否定した以上、中にはなにかあるのだろう。


「この中は魔物が彷徨いているの。魔物については、この前勉強したわよね」

「大気中の魔力が凝縮して生まれたり、動植物に濃い魔力が宿ったりすると生まれる、あらゆる生物にとっての敵、だよな」

「ええ。洞窟という場所の性質上、中に普通の生物はいないわ。みんな魔物」


 人もドラゴンも、その他の動植物も見境なく襲ってくるのが、魔物と呼ばれるものたちだ。洞窟のような閉鎖的な空間なら、中に一体生まれただけでも、その近辺の生物を食い尽くしてしまう。そうでなくとも洞窟の外へ逃げるだろう。

 そうなってしまえば、後は魔物が増殖してしまい、立派なダンジョンの出来上がりだ。


「中の魔物は外に出てこないのか?」

「こっち側には出てこないわ。センが広範囲の魔物避けの結界を張ってるから。ここまでは届いていないはずなのだけれど、本能的にこちら側を忌避しているのよ」

「じゃああっち側は?」

「向こうは魔物が外に漏れるけれど、この洞窟を抜けたらすぐにノウム連邦の国境線なの。関所があるし、兵士も詰めているから、定期的に駆除しているみたい」


 つまりここから進むなら、奥に行けば行くほど敵の数も増える、ということか。

 龍太個人の実力は、まだ一人で戦えるには程遠い。かと言ってハクアだけに魔物の相手を任せるわけにもいかない。彼女一人だけならいいものの、人間一人庇いながらでは労力が倍以上に膨れ上がるだろう。

 なるべく慎重に進むべきだ。


 まあ、いざとなったら、バハムートセイバーで突っ切ってしまえばいいのだし。

 問題は時間制限だが、この洞窟がそこまで長くないことを祈ろう。


「エル、灯りをお願い」

「きゅー!」


 洞窟に一歩踏み出せば、エルが魔法陣を展開させた。小さな光球が現れ、洞窟内を照らしてくれる。


 頼りになる光源は多い方がいい。岩の壁にも等間隔に灯りが置かれてはいるものの、それだけでら心許なかった。


「エルも術を使えるんだな」

「まだ生まれたばかりだけれど、エルだって立派なドラゴンだもの」


 頼りになる仲間の一匹、というわけだ。そのうちエルも、人の姿になれたりするのだろうか。その時が楽しみなような、エルには今の可愛い姿のままでいてほしいような。


 そんな風に考えながら洞窟内を進んでいると、前方からなにかの音が聞こえた。

 ぐちゃ、びちゃ、と。生々しい生理的嫌悪感を引き起こすもの。ハクアに足を止めるよう手で合図され、ゆっくりと岩陰に身を潜める。


 その先の光景を覗いて、龍太は思わず声をあげそうになった。


「……ッ⁉︎」

「静かにね」


 口元にハクアの人差し指が当てられる。こくこくと首を縦に振って、目を覆いたくなるようなそこを、もう一度見た。


 狼、だろうか。類似する生物はそれしか見当たらない。四本足の犬に似た獣。しかし筋肉は不自然なほど大きく隆起しており、なにより目が四つある。


 あれが、魔物。元の世界にはいなかった、この世界にとっての敵。

 それが二体、足元に転がるなにかを捕食していた。人間の死体だ。肉を、脳を、臓物を、骨すら噛み砕いて、喰らっている。

 もはや顔も、性別すら分からないほどに食い荒らされた肉塊。込み上げてくる吐き気を気合だけで押さえつけて、決して目を逸らさない。


「これがこの世界の現実。リュータの世界よりも戦いが、死が身近にある。街の中にいれば安全だけれど、一歩外に出れば、弱い者は淘汰される」

「……せめて」

「ええ、そうね。せめて、あれ以上は止めて、彼の尊厳を守ってあげましょう」

『Reload Lightning』


 遊底ボルトが引かれ、機械の音声が洞窟内に反響する。当然魔物に気づかれて、二体の視線が身を隠している岩に向いた。


 素早く身を晒し、ハクアがライフルの引き金を引く。銃口から放たれるのは、光を撒き散らしながら突き進む稲妻だ。手前にいた魔物に直撃し、全身を痙攣させる。動きを止めた同胞を尻目に、もう一体は強靭な筋肉で地面を蹴った。


 ドレスのスカートの中からナイフを抜いて投擲、四つ目のひとつに突き刺さり、キャンッ! と悲鳴が上がる。

 怯んだ隙に、龍太も岩陰から出て剣を抜いた。エルの掲げる光球に当てられる、刀身が白銀の煌めきを演出する。


『Reload Explosion』


 カートリッジを変えたハクアが、一拍置いて射撃。弾丸がリュータの背中を追い越し、ナイフの突き刺さった魔物の腹に直撃、小さな爆発を起こす。

 煙の向こうへと突っ込んで、狼の頭に剣を突き刺した。まるで豆腐でも切っているように、不気味なほどスルリと刃が通る。それで魔物の一体は絶命した。

 体が魔力の粒子へ霧散していく。それを見届ける暇もなく、麻痺から回復したもう一体が襲いかかってくる。


 三度の射撃音。カートリッジは使わなかったのか、ただの光弾がリュータの目の前まで迫っていた狼の体を穿つ。


「リュータ、下がって!」


 言われるがままにバックステップで後退すれば、すれ違うように弾丸がいくつも放たれた。その全てを寸分違わず狼の体に命中させるハクアだが、敵はまだ倒れない。


 そして、やつの四つ目の全てが、後退した龍太に向けられる。


「体が……⁉︎」

「やっぱり魔眼持ち!」

『Reload Particle』


 魔眼とやらはまだ習っていないが、なにかやばいものだと分かる。奴の四つ目に見つめられた瞬間動かなくなった。元の世界の知識を参照するなら、メデューサの魔眼が近いだろうか。

 体が石にならないだけマシだ。


 容赦なく、最大火力のカートリッジを使うハクア。銃口からは荷電粒子砲が、大気を焼き切らんと放たれる。

 しかし狼は俊敏な動きで躱し、脅威度の高いハクアへの瞬く間に肉薄した。一瞬で懐に入られる。マズい、ハクアの得物はライフルだ。それも長物。あの距離は対処できない。


 未だ体がピクリとも動かないリュータは、振り返ることすらできずにいる。背後のハクアへ襲いかかった狼が凶悪な爪を振り上げる様も、危険に晒されているハクアも、視界には映らない。

 せめてこの剣だけでも投げ渡せれば。そんな思いとは裏腹に、視界内に吹き飛んできたのは狼の方だった。


「ハクアッ!」

「大丈夫、心配しすぎよ」


 体の硬直が解けて振り返れば、純白のドレスに一つの汚れもつけず、両手でライフルを持ったままのハクアが。そしてその眼前には、防壁が張られている。

 そもそもハクアは魔力を持たず、防壁も張れないはずだ。まさかと思いその頭上を見やれば、エルの得意げな鳴き声が。


「きゅー!」

「そうか、エルが守ってくれたのか……」

「きゅぅ、きゅぅ!」

「エルが守ってくれるから、わたしはちょっと蹴っ飛ばしてやっただけ」


 長いスカートを摘んで、ヒールのついたブーツが露わになる。それも純白。よくもまああんな靴で雪山を歩けるな、と不思議に思えて仕方ない。


 ハクアに蹴り飛ばされた狼は、忌々しげに二人と一匹を睨んでいた。警戒すべきはあの魔眼とかいうやつだ。元の世界なら、目を合わせなかったらいいとか、そういう話を聞いたことはあるけど。さっきは目を合わせていない。こちらを見られただけだった。


「リュータ、下がっててもいいわよ。ちゃちゃっと終わらせるから!」

「あ、おいハクア!」


 声をかけるも聞く耳持たず、ハクアはライフルを持ったまま狼へ向かって駆ける。

 接近するのは愚策だ。戦いの素人でも分かる。ここはリュータと遠近で分かれた方が安全。そんなことはハクアだって当然理解しているだろうに。


 狼へと肉薄するハクアが、大地をさらに強く蹴る。スカートの中からナイフを取り出して、すれ違いざまに一閃。

 悲鳴を上げた狼の首から、血が大量に吹き出した。血管を斬ったのだろう。それでも諦めず、魔眼を使おうと四つの目がハクアへ向けられる。


 が、しかし。振り返った狼の視界に、純白の少女は映らなかった。


『Reload Explosion』

「遅い」


 声は上から。洞窟の高い天井に、真紅の光が二つ。重力に逆らうように天井でライフルを構えたハクアが、無慈悲に引き鉄を引いた。

 真上から放たれた弾丸は狼の脳天に直撃し、その体を爆散させる。


「す、すげぇ……」


 華麗に着地したハクアは、こともなげに投擲したナイフを回収していた。返り血ひとつ浴びず、その純白を保ったままだ。


「わたしはドラゴンだから、身体能力も人の域を出ているの。ライフルを持ってるから接近戦ができない、なんてことはないんだから」


 得意げにちょっとドヤ顔なのが可愛い。

 ともあれ、これで魔物は撃退できた。龍太は近くに倒れている、人の形を保てていない死体に向き直る。


 目を背けたくなるような惨状だ。胃の中が逆流しそうになる。それでも必死に耐えて、ハクアと二人、両手を合わせて目を閉じた。


「こんな状態じゃ死体は運べないし、ここじゃ埋葬もできないけれど。洞窟を出たら関所の兵士に知らせましょう。この人の死を、伝えることはできるわ」

「ああ……」


 初めて直面した死。

 もしも、龍太たちがあと少しでも早く、この洞窟に入っていれば。

 助けることができたかもしれないのだ。こうなる前に。


「……リュータ、この人の死にまで、責任を感じる必要はないわ」

「でも、俺たちがいたら助かってただろ……」

「あなたのその、誰が相手でも助けたいと思える心は、とても素晴らしいものだと思う。けれど、あまり欲張りになりすぎないで」


 ハクアの言いたいことは、分かっているつもりだ。かつて幼馴染にも似たようなことを言われたことがある。

 誰でも彼でも助けようとしていたら、龍太の身が持たないぞ、と。


 あるいはこんな考えが、傲慢なものなのかもしれないと、龍太自身だって考えなかったわけがない。

 それでもだ。それでも、と。そう思わずにいられない。


「さあ、先に進みましょう」

「そうだな」


 悲しく、残酷ではあるが。ここでこの死に拘泥している暇はない。龍太には、目的があって旅をしているのだから。



 ◆



 洞窟を更に先へと進んでいると、突然エルが鳴き声を上げた。


「きゅー!」

「どうしたエル?」


 まるでなにかを警戒するように、暗闇に包まれた通路の向こうを見つめている。

 その意味に最も早く気づいたのは、ハクアだった。


「魔力の反応があるわ。でも、魔物とは少し違う……」

「魔導師の人か?」

「いえ、人間のものとも思えない……多分、スカーデッドかも」


 その言葉に、龍太は過剰に身構えてしまう。村に突然現れ、龍太の身柄を寄越せと言ってきたやつら。スペリオルという組織の、人間でもない謎の存在。


 そいつらが、この先にいる。

 しかし引き返すこともできない。ノウム連邦へ行くには、この洞窟を通るしかないのだ。激突は避けられないか。


「進むしかねえな」

「そうね」


 最大限に警戒しながら、歩みを進める。

 その道中魔物と出会うこともなく、やがて足を止めたのは、目の前に二メートルを超える巨大な男が仁王立ちしていたからだ。


「フハハハハ! ようやく来たようだな、アカギリュウタ!」


 岩と見紛うほどの、筋骨隆々の巨体。浅黒い肌にスキンヘッド。そして、フェニックスと同じ服。

 間違いない、こいつがスカーデッドだ。


「むさ苦しい男ばっか寄越しやがって。異世界転移ってこんなんだったか?」

「む、リュータは女の子がご所望なのかしら。わたしがいるのに」


 なんて軽口を叩いていないと、圧倒されてしまいそうな存在感。


 だからハクアは機嫌を損ねないでほしい。軽口だから。冗談だから。


「我が名はエレファント! スペリオルが有する戦闘兵器、スカーデッドがひとりよ!」

「なんだ一人か? あのフェニックスってやつみたいに、ほかの怪人は連れてねえのかよ」

「有象無象の手を借りるなど、軟弱者のやること! 男ならば己が拳ひとつで戦ってこそだろう!」

「気が合いそうだな」


 エレファントと名乗った男が、懐から紅いカートリッジを取り出す。それを見て、龍太とハクアも互いの手の平を合わせた。


「組織の目的など難しくてよくわからんが、貴様が強者であるなら、是非本気での手合わせを願おう!」

『Reload Elephant』

「望むところだ! 行くぞハクア!」

「ええ!」

「「誓約龍魂エンゲージ!!」」


 白と紅の輝きが、洞窟内を照らす。

 紅い球体がどろどろと溶けて現れたのは、全高五メートルはあろう巨大な象。対する純白の戦士、バハムートセイバーは腰の後ろに新しく剣を装備していた。


「この剣、もしかして俺の?」

『バハムートセイバーの力で多少形は変わっているけれど、村長からもらったリュータの剣よ』


 抜き放てば、ハクアのいう通りその形は大きく変わっていた。

 なんの装飾もない両刃の直剣から、機械的な意匠を感じられるものに。最たる特徴は鍔の部分。右手のガントレットと同じく、カートリッジの差し込み口がある。


『あなたの剣は、持ち主の魔力に応じて切れ味が増す魔導具よ。そこにカートリッジシステムも合わされば、戦略の幅が増えるわね』


 なるほど、かつてのハクアがこの剣をあの村に残していったのは、彼女が魔力を失ったからか。

 などと納得している場合ではない。今は目の前の敵をどうするかだ。


「ほう! お前も姿を変えるか!」

「バハムートセイバーだ!」

『それがあなたを倒す戦士の名前よ、覚えておきなさい!』


 剣を構えて大地を蹴って、エレファントへと肉薄する。巨大な分鈍重な敵は、バハムートセイバーの接近を容易く許した。


「おらぁ!」

「無駄だ!」


 その長い鼻へと、勢いよく刃を振り下ろす。しかし。

 ガギィンッ!! と、大きな金属音が鳴って、剣が弾かれた。驚愕に目を見開いていると、反撃がやってくる。長い鼻を振り回し、脇腹に直撃して大きく吹き飛ばされた。


「ガッ……!」

『硬い……! なにあれ、ドラグライトでも斬ったみたい! さすがに硬すぎるわよ!』


 ドラグライトとやらがなんなのかはさておき、硬すぎるというのは同感だ。龍太が剣という武器の使い方に慣れていないこともあるだろうが、それだけでは納得できないものがある。


「フハハハハ! 我が肉体を傷つけようなど、貴様らには百年早いわ!」

『こっちは何万年も生きてるのだけれど!』

「言ってる場合か! 他の手を試すぞ!」

『Reload Explosion』


 ガントレットにカートリッジをセットして、光弾をいくつも放つ。直撃して爆発を引き起こすが、煙が晴れた先にはやはり無傷の巨体が。


「マジかよッ」

『もっと火力の高いカートリッジを使いたいけれど、洞窟が崩れたら危険だわ』

「そらそらぁ! もう終わりか、バハムートセイバー!」


 大きな音を鳴らしながら、象が突進してくる。一本道では横に躱すこともできず、上に跳躍して頭上を通り抜けることで回避。位置関係が逆になり、ここから出口へ一直線に逃げることも可能となった。

 だが、そうするとこいつを外に出してしまうことになる。ハクアが言うには関所があるとのことだし、そこには兵士以外の人間もいると考えるべきだ。


 最悪は避けなければならない。一般人が巻き込まれる可能性が少しでもあるなら、ここでこいつを倒すべき。


『直接的な攻撃がダメなら……エル、お願い!』

「きゅー!」


 少し離れたところを飛んでいた小さな黒いドラゴンが、魔法陣を展開する。放たれるのは水だ。レーザーのような勢いもない、単なる水。ただし量が多い。エレファントの全身を濡らすほどに。


「フハハハハ! なんだこれは、冷たくて気持ちいいではないか!」

『今よリュータ!』

「そういうことか!」

『Reload Lightning』


 ガントレットから、一筋の稲妻が放たれた。一直線に突き進むそれは象に直撃し、水によって全身が感電する。


「ぐおぉぉぉぉぉ⁉︎」

「効いてる!」

『剣に魔力を集中させるわよ!』


 ハクアが龍太の魔力を操作し、右手で持つ剣に最大限の魔力が送られた。再び肉薄して、今度は容易く、敵の長い鼻を斬り落とす。


「な、なにぃ⁉︎」

『リュータの力を甘く見たわね』

「決めるぞ、ハクア!」

『Reload Execution』

『Dragonic Overload』


 剣にカートリッジをセット。純白の鎧を紅いオーラが包み、それが剣へと収束。巨大な紅い魔力の刀身を形成した。


『これで終わりよ!』

「おらぁぁぁぁぁ!!」


 一刀両断。

 縦一文字に振り下ろされた紅い刃が、エレファントの巨体を真っ二つに。爆発を引き起こした。


 カートリッジが足元に転がってきて、フェニックスの時のように行かぬよう、踏み潰す。

 煙が晴れれば、粒子が空中に溶けて消えていた。筋骨隆々の大男はどこにも見えない。

 完全に倒したことを確認して、変身を解く。


「死んだ、のか……?」

「多分、死んだというのは正しくない。破壊したと言うべきかしら。あいつらは機械みたいだし」


 そこに人と同じ知能や自我を与えられたのが、スカーデッド。

 人の姿をして、人と同じ思考を持ち、それぞれが個性や自我を与えられた存在。人となにが違うのだろう。


 あくまでも破壊。殺したわけではないとハクアは言うが。


「……それでも、あいつらがテロリストで、いわゆる悪の組織ってやつなら、倒さないわけにはいかないもんな」


 噛み締めるように呟く。ハクアが心配そうな目でこちらを見つめるが、それには大丈夫だとかぶりを振った。


「あのね、リュータ……」

「行こう、ハクア。俺は本当に、大丈夫だから。あいつらを倒さないと、俺だけじゃなくてハクアも、他の人たちも危険に晒されるんだ。だったら、覚悟しなきゃダメだろ?」


 未だに心配そうな目をしたハクアだが、龍太の意思を尊重したのか、それ以上なにも言うことはなかった。


 かくして少年は、先を進む。

 この世界で初めて触れ、直面した、死というものを背負いながら。

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