AIの進化

「ねえ、ノゾミ、最近のAIの進化はすごいね」


 レイアが試着室から出てくるなり、そんなことを言った。


「あの店員さんなんて、人間と見分けがつかない。しゃべりかたも普通だし」


「たしかに、見た目じゃわからないね」


 レイアを待っていたノゾミは待ちくたびれた、とばかりに気だるそうに答える。

 ノゾミとレイアは親友同士。

 今日は二人でショッピングセンターへ買い物に来た。


 今どき買い物なんて、自宅にいながらVRでできるのだが、たまにはこうして自分の足で歩いて色々な店をまわりたい。

 洋服の試着も、仮想現実の中でするのと、実際にするのでは、やっぱり何かが違う……ような気がする。

 とはいえ、こういう買い物が直にできる施設は減った。需要がないからだ。

 皆人間は仮想現実の中に実生活を移し、現実世界には接客担当のアンドロイドがいるばかり。


 ノゾミは人であふれている仮想現実より、こっちが好きだ。

 だけど一人はさみしいから、特注で、アンドロイドを作った。

 名前をレイア、と名付けた。

 レイアは自分が人間だと信じているアンドロイドなのだ。


「ノゾミ、靴も見ていこうよ」

「先に何か食べようよレイア。歩くとお腹すいちゃう」

「私お腹減ってないから、ノゾミだけ食べなよ」


 食べ物を食べるシーンになると、回避する。

 それでもレイアは自分が人間だと思っている。

 あの店員と同じ、アンドロイドなのに。

 ノゾミは思う。

 AIの進化はすごい。こういうアンドロイドも作れちゃうんだから。

 とはいえ、VR世界が主流になった今、レイアみたいな「親友アンドロイド」はあんまり需要ないか。……いや、物体が存在しないだけで、仮想現実にはいるのかな? 自分を人間だと思っている……データ?

 仮想現実にいる人間とデータだけの存在って、何が違うんだろう。現実世界に肉体があるかどうか、かな。

 その肉体がなくなったら?


「ノゾミ?」


レイアに顔を覗き込まれてノゾミははっと我に返った。


「ノゾミはたまにぼんやりしてるね。考え事?」


「いや、考え事っていうか……」


 ああそうだ。AIは意味もなくぼんやりしたり、答えを導き出そうとしているわけでもない考え事をしたり、無駄な心配をしたりしないのかも。


「レイア」


「なに、ノゾミ」


「レイアは、心配していることとか、ある?」


「あるよ。ノゾミとずっと親友でいられるかどうか」


 ノゾミの目を真っすぐに見たレイアは、やけにはっきりした口調でそう言った。

 

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