エアコンの怪 (ホラー)
エアコンの送風口から、腕が垂れ下がっている。
「最近エアコンの効きが悪くて、部屋が暑いのなんのって。ま、入れよ」
友人が愚痴りながら俺を部屋に招き入れてくれた。
俺は腕が気になったが、ずっと入り口で突っ立ってるわけにもいかず、何でもないふりをしながら部屋に入り、座布団の上に座った。
この前はなかったよな。
そこそこ付き合いの長いこの友人は、ホラー映画を自分で撮るのが趣味で、それをいちいち俺に見せてくる。
「お前、高校のときから
調子よくそう言って、俺を定期的にこの1DKマンションに招く。なんだかんだで悪い奴じゃないし、俺も友達が少ないからこうしてつき合って十年。気づけば二人とも独身のまま、三十路が近い年になっていた。
「暑いの勘弁な。ほい、缶ビール。にしても、ちゃんとフィルター掃除したんだけどな」
缶ビールを受け取りながら俺は「フィルターじゃない、腕だよ。腕が原因だ。お前見えてないのか」と心の中で毒づいた。
友人の言うとおり、俺は昔から見える体質だ。だがここまではっきり見えたのは久しぶり。ちらりとエアコンの方を窺う。
やっぱり腕が一本、エアコンの送風口から垂れ下がっている。右腕だ。赤黒く、うっ血している。
やや透けて見えるので、やはりこの世のものではないだろう。本物の腕で、この友人がしらばっくれているという線は消えた。
「おい、何エアコンばっか見てんだよ。俺の映画を見ろよ!」
「あ、悪い悪い」
なんにせよ、
ごめんな、友よ。自作のホラー映画見ながらはしゃいでる友よ。すぐそこに本物のホラーがあるけど、お前見えてないみたいだから、言うのやめるわ。
映画を見終わった俺は、程よく出来を褒めて、友人と別れ、自分のアパートに帰宅した。シャワーを浴びる前に部屋のエアコンをつける。
さっぱりして、部屋に戻ると、部屋が生ぬるいまま。とっさにエアコンを見た。赤黒い腕が垂れ下がっていた。
げんなりして立ち尽くしていると、スマホが鳴った。
『エアコン直ったー★ マジ快適(^▽^)/』
無性に腹が立った。
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