デマルカスィオン~境界線のこちら側と向こう側

JUN

第1話 プロローグ

 真っ暗なビルの空き室の中で息を潜めてじっとターゲットを待っていると、街頭テレビが見え、見るともなく人気タレントの占いコーナーを見ていた。

『牡羊座のあなた!明日は一生に一度の出会いがあるでしょう。ラッキーカラーは赤!』

 その時電波時計が電波を拾い、日付が変わった事を知らせた。

 それからほんの2秒ほどで、セレはスコープの中にターゲットを発見した。

 とあるヤクザの幹部で、常に防弾仕様の車で移動し、周囲を子分で固めた男だ。

 そのターゲットが唯一無防備になるのが、愛人のマンションについて、エレベーターを降りてから愛人の部屋に入る間だ。壁があるから安全だと思っているらしいが、壁には2メートルごとに10センチのスリットが入っている。なのでセレは、その隙間からターゲットを狙撃するのが今回の仕事だ。

 歩く速度がほぼ一定なので、問題はない。

 引き金に指を置き、タイミングを計り、そっと握るようにして引き金を引く。サイレンサーのために音は抑えられ、静かなものだ。

 しかしスコープの中で、ターゲットの頭は血しぶきを撒き散らし、糸の切れた人形のように倒れた。

 まるで、無声映画のように。

 セレは素早く銃を分解してバッグに入れると、何食わぬ顔でビルを出て行く。

 そして、ふと思い出した。

(ああ、あのターゲットのやつ、牡羊座だったな。一生に一度の出会い……銃弾かな?死神かな?ラッキーカラーは赤か。アンラッキーカラーなら赤だったな)

 肩を竦めて人混みに紛れ、家に向かう。

 街頭テレビの中から人気タレントが、

『では皆さん、お休みなさい!良い明日を!』

と手を振っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る