第19話

 11月、うっすらと冬の気配を感じ始める。

 今日は僕、奏と琴葉が珍しくバンドのリーダーである瑞季に「話がある」と、呼び出された。

 僕は少し嫌な予感を感じつつ、藤沢の楽器店の近くの、いつものカフェに入った。


 2人は既に奥の席に向かい合って座っていた。

 僕も席につき、なんとなく姿勢を正した。

「今日、話したいことっていうのはちょっと提案があってね、、」

 正面に座った瑞季が神妙な面持ちで口を開いた。

「バンドを、今年度いっぱいで解散しようと思うんだ。」

「えっ!?」

 琴葉と声が重なった。

 衝撃の提案だと感じた。


 が、それは一瞬だった。

 少し考えれば、思い当たる節が僕にもあった。

 仲が悪くなったとか、バンドが嫌になったとか飽きたとか、そういうことでは無い。しかし、僕は直ぐに言葉にすることが出来なかった。


 しかし瑞季はそれを、長いこと考えていた言葉を丁寧に並べるように簡潔に、そしてゆっくりと言葉にしてくれた。

「別にバンドが嫌になったとかじゃない。

 今だって大好きだ。ただ、だからこそこの辺りで辞めておくべきだと思ったんだ。」

 瑞季は僕らの目をしっかりと見ながら続ける。

「元々俺がバンドを始めようと思ったきっかけは居場所が欲しかったってことなんだ、音楽を一緒にできる仲間とのね。これは奏もhomeで書いてくれていたから同じ気持ちでいてくれてると思う。」

 その通りだ、と僕は頷く。話はまだ続く。


「それで、このバンドを続けていく上での目標っていうのは、奏がつくって、俺らで奏でる音楽を沢山の人に聴いて欲しいってことだった。けど、それはもう達成してしまった。このまま俺らの音楽で元気づけなきゃいけない人はいるかもしれないけど、今後もそれが今と同じクオリティでできるとは思えないんだ。」

 本当にその通りだと思った。僕も丁度、曲をどこに向けて、何を書いたら良いか分からなくなって来ていた頃だった。


 そして琴葉がゆっくりと言葉を口にする。

「うん、もっと大きな目標を立てたとしても、今と同じような活動とか、生活をできる気がしないよね。」


「そう、そうなんだよね。今俺らがバンドをやると必然的に沢山の人の耳に触れることになる。それに足りるほどの音楽を詰められていけない気がしたんだ。

 2人が賛成してくれたら、高校卒業と同時にバンドを終わらせようと思う。どうかな?」

「うん、いいよ」

 僕はすぐに応えた。瑞季が考え抜いて出した結末ならばそこに身を委ねる他ないと思った。

 琴葉も少し戸惑った表情をしながらも、頷いていた。



 バンドの最終目的地が決まった。

 ここ数ヶ月、ただ惰性で制作を進めてしまっていたところもあったので、逆に前向きに捉えることができた。

 残るは五ヶ月。全力で駆け抜けよう。




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