第17話 この世界にコレが・・・確保!!

「そっかー、使用人の人とはぐれちゃったんだー。心配だね」


「そ、そうですわ」


今私、噴水の縁で座っているの。自分の気持ちとリンクしているのか、地面に届かない足を、気もそぞろにぶらぶらさせてるわ。


「家に連絡を入れて、迎えに来てもらった方が良いんじゃないかい?」


「え?・・・たぶんそのあたりで、わたしをさがしているとおもうから、すこしまってみますわ」


何とか、ごまかせたわ~。まさか、本当のこと言えないもの。使用人とはぐれた、というふうにしておいた方が無難よね。

でもエレノア親子、得体のしれない子供の私を、心配してくれるなんて素直過ぎるわ!悪い人に騙されないか逆に心配よ~。

・・・あと、家に連絡を入れると、脱け出したのがバレてしまうので、悪いけどエレノアのパパの提案は遠慮するわ。怒られるが目に見えてますもの!ハンフレイパパに、マリアンヌママに、ミラ・・・ぶるっとしますわ。


それにしても、エレノアのパパも、綺麗なピンクベージュの髪ね~。ハンフレイパパと同じくらいの年齢の男性が、ピンクベージュ色の髪をしていても、顔が整っていると違和感ないのね~。もちろん、ハンフレイパパがピンクベージュにしても似合うと思うわ。でも、エレノアのパパは、似合うとかを通り越してしっくりくるのよ。あ、瞳の色は、エレノアと違ってターコイズブルーなのね。ほう~。流石、ヒロインの父親だわ~。


「だから、あそこで座り込んでいたのでしょうか?」


「・・・すこし、つかれてしまったので、やすんでいたのですわ」


ヒューゴ・・・その話は振り返さないでほしいわ。自己嫌悪に陥ってしまうもの・・・。


あ、忘れてたけど、屋台のおじ様は、店を空けられないと直ぐに戻って行ったわ。


「じゃ、一緒にお祭りを回る?」


「そうだね、それが良いかもしれないね。回っている途中で、使用人の人と会うかもしれないしね」


うっ・・・ごめんなさい。どんなに回っても、使用人とは会えないわ・・・。


「じゃ、僕が案内します」


「え!本当!?嬉しい!」


ヒューゴの案内してくれるという言葉に、エレノアは、噴水の縁に座ったまま飛び跳ねるように素直に喜んで可愛いわ~。


「え、良いのかい?久しぶりの王都で戸惑っていたんだよ。悪いね」


一方、エレノアのパパは、後頭部に手を当てて申し訳なさそうだわ。


「では、自己紹介しましょうか。一緒に回るのに名前を知らないのは、不便ですし」


「そうだね!折角知り合ったんですもの。わたし、エレノア・フローレスって言うのよ」


「私は、ジェイデン・フローレスだよ。エレノアのお父さんだよ」


「僕は、ヒューゴ・リッチーです。父は、リッチー商会に商会長です」


「ヒューゴ君のお父さんは、商会長なんだね。凄いな~」


「ねぇ、お父さん。商会長って凄いの?」


「そうだね。月一でうちに来る行商さんを、沢山雇っている所が商会と言うんだ。で、その商会の長だから偉い人だよ」


「へぇ、そうなんだ~」


「そんなことありませんよ。世の中にはもっと偉い人や凄い人が居ますから」


「でも、凄いよ!行商さんより、商品を沢山取り扱っているってことでしょ?わたし、うちに来る行商さんって、沢山商品を管理して計算もしているの、凄いなって思っていたもの」


エレノアがグイッとヒューゴに顔を近付けて興奮気味に言うので、彼は驚いて目をパチクリした後、照れくさそうに微笑んだわ。その笑顔がとても可愛いくて、ヨダレが出そうだったの。危ない、危ない、思わず口に手を当てて確認してしまったわ。


あら?いつの間にか、3人の目がこちらを向けているわ。

あ、この流れ、私も名乗るの?でも、名乗って大丈夫かしら?本当は、私はここで関わっていけない人物なのよ!!

・・・あぁ~でも、3人とも私が名乗らない訳がないという感じで、黙って待っているわ・・・仕方ないわね、これは名乗るしかないわね。


「・・・ありあるーな・ふぉーさいす、ですわ」


でも、名乗ったは良いけど・・・この後、絶対一緒に回らないといけない雰囲気よね。困ったわ~。一緒に来た使用人が、本当は来ていないってボロが出そうだわ・・・。


「じゃ、行こう!」


そう言ってエレノアは、突然立ち上がると私の手を取り、立ち上がらせようとしたの。ちょっと、危ないわ。私、足が届いていないのよ。


「あ、あぶないわ!」


「あ!ごめんなさい、アリアルーナさん」


エレノアって、考え無しなことはするけど、直ぐに謝れるのはちゃんと教育されているのね。良かったわ~。


そして、落ちそうになった私を、然り気無くエレノアのパパが支えて下ろしてくれたの。そう、これを紳士ジェントルマンと言うのよ。覚えた方が良いわ、ヒューゴ君。


「ありがとうございます」


「どういたしまして」


そして、彼もヒューゴも立ち上がったわ。


「先ずは、先ほどのおじさんの所に行きませんか?ホットドッグが美味しいんですよ」


「良いわね!食べてみたいわ」


「じゃ、そうしようか。アリアルーナさんもそれで良いかな?」


「はい、たのしみですわ」


この気遣い・・・エレノアのパパって、とてもモテるのじゃないかしら。


「彼は、元騎士なんです。けど、結婚したら家族に悲しい想いをさせたくないと、騎士を辞めて商売を始めたんです。だから、食材も自分で狩ってきたり、採取してきたりしているんですよ」


そうよね、屋台をするために体を鍛えるって変だなと思ったもの!!元騎士だったから、あんなに良い体つきだったのね。


「すっごい!じゃ、新鮮な物が食べれるね」


うっ、この天然さん!エレノアが可愛くて、ヨダレがやばいわ!ゴクゴク飲めそうよ!!


「家族を養うのに、経費を削減しているのか。見習わないと」


エレノアのパパは、胸を押さえているわ。心に響いたのね・・・貴族の大人が、こんな純粋で大丈夫かしら?


「おじさん!」


「お!来たのか、ぼっちゃん。ちっこいお嬢ちゃんは、大丈夫だったかい?」


「さきほどは、ありがとうございました。たいへん、ごめいわくをおかけしました」


「お、おう・・・なんか、そんな上品に言われると、ムズムズするな~」


おじ様が、居心地悪そうに体を動かしているわ。


「おじさん、ホットドッグが欲しいんです。人数分、お願い出来ますか?」


ヒューゴは、背伸びして台の上にあるホットドッグを覗く。私は、背伸びしても全然見れないわ。


「おう!どれが良い?肉は3種類、魚介類は4種類あるぞ」


魚介類!王都は、森が近いからお肉の流通は多いけど、魚介類は少ないのよね~。それなのに、4種類もあるなんて!!


「種類が多いですね。これは困った、どれも美味しそうだ」


そんな感じで、心底エレノアのパパは関心しているわ。


「ありがとうございます。こんなに種類が多いのは、お祭りの時だけですよ」


褒められて、おじ様は頭を掻いて、照れているわ。可愛いところがあるのね。この世界って、モブでも結構なイケメンなのよね。この屋台のおじ様も渋い感じのイケメンですもの。


「わたし、牛と豚が食べたい!」


「エレノア、二つは全部食べられないだろ。どれか一つにしなさい」


「はーい。ん~、豚にする!」


「じゃ、お父さんが牛を頼むから、少しあげるよ」


「ありがとう、お父さん!」


そんな微笑ましい二人のやり取りを、親戚のおばあちゃん目線で見てしまったわ。


「僕は、鶏の照り焼きでお願いします」


照り焼き!?ホットドッグ屋さんと言っていたわよね!


「て、てりやき・・・」


「ん?鶏の照り焼きか?牛と豚はソーセージだけど、鶏と魚介類はソーセージじゃないんだよ。悪いな」


「わたしは、てりやきとぎょかいるいを、それぞぞれ5こづつ、おねがいいたしますわ!」


「お嬢ちゃん・・・そんなに食べられないだろ」


「だいじょうぶですわ!まほうがありますもの」


「いや、国を上げて魔法の強化しているのは分かっているけど、そもそも大食いになる魔法なんてあったか?」


おじ様が首を傾げるのも、絵になるわね・・・。


それは、置いておいて。ふっふっふ~。この私には、収納魔法があるのよ!


これが目に入らぬか~!!とそんな感じで収納魔法のフォルダーから、数日前に揚げてもらったアツアツのクリームコロッケを、屋台の台の上に出してみたわ。紙の袋に入っているから汚くないわよ。


「「「「え?」」」」


何を驚いているのかしら?


「・・・アリアルーナさん。私たちが何に驚いているのか分からないようだけど、収納魔法を使える人はまだ少ないんだよ。それも、時間の経過がないのなんてね」


エレノアのパパがそう教えてくれるけど、収納魔法は、一緒に魔法を習っている大人たちはもちろん、カーティスたちも使えるものよ。そんなに、驚くことでもないと思うのだけど・・・。


「わたしのまわりにいるひとたちは、じかんけいかがしないしゅうのうまほうもつかえるわ」


「お嬢ちゃん、町でそんな魔法は使わない方が良い。使うのなら護衛がいる時だけにしな」


おじ様が、心配そうに言ってくれてるわ。でも・・・。


「だいじょうぶだわ。このまほうをおぼえるの、かんたんよ。えれのあさん、ひゅーごさん、てをだしてくれないかしら」


「う、うん・・・」


「あ、はい・・・」


私に言われた二人は、恐る恐る手を私の方に差し出してくれたわ。エレノアのパパは、心配そうだけど、成り行きを見守っている感じだわ。その二つの手を掴んで、収納魔法の無属性の魔力を流していくわ。


「何の魔力が流れてくるけど、何か分からないわ」


「これは、無属性の魔力ですか?」


「そうなの。しゅうのうまほうは、むぞくせいのまほうなのよ」


「そうなんだ~。知らなかった~」


「へ~、初めて聞きました」


「ふたりは、まほうをならっているのよね?」


「うん、習っているよ」


「えぇ、習っていますよ」


「むぞくせいのは、ならってないの?」


「無属性は、まだ習っていません。習わなくても問題ないって言われてます」


「わたしの所も同じよ」


これは、ナッターズ侯爵に報告だわ。


「もったいないわ・・・はい、おわりよ。このせかいにはないくうかんをおもいうかべてみて、そこにむげんにものがはいるのをいめーじするのよ」


「自分だけの世界を作れば良いのね!」


「自分だけの世界ですか・・・」


「じかんけいかしないようにも、いめーじすればできるはずよ」


二人にクリームコロッケを渡したわ。アツアツだから、時間経過の確認も出来るわよね。


「やってみる!」


「試してみますね」


そう言うと二人は、クリームコロッケを持って収納魔法を試し始めたわ。


「おじさまたちも、てをかしてくるかしら」


「アリアルーナさん、子供たちだけで充分だよ。それでも、魔法習得の報酬が払えるかどうか・・・」


「オレも悪いから良いよ」


「えんりょしないでください。くにでは、むしょうでまほうをおしえていますから、ほうしゅうはいただかないですわ」


遠慮しなくても良いのにね。

エレノアのパパの手を掴み、おじ様に寄越してと手を出したわ。それを観念したおじ様は、しょうがないな~と私の手を掴んでくれたの。

おじ様たちにも、無属性の魔力を流して、流して、流して・・・やっぱり子供と違って、大人は時間がかかるわね。


「おわりましたわ。あとは、いめーじとれんしゅうをしてくださいね」


「ありがとうね」


「ありがとうよ」


「どういたしまして」


「じゃ、ちゃっちゃっと作るからな。特別にお嬢ちゃんの先にするからよ」


そう言って、作ってもらったサンドたちを収納魔法で次々に入れていると、誰かが私の体を急に持ち上げたの。振り向かなくても分かるわ、この背筋がぶるっとする感覚は・・・。

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