第7話 ジュリアンナは可愛いですわ

 今日は、ジュリアンナの誕生日パーティーだわ!

 やっと会えるのよ。エドワードは、私の所に来て散々ジュリアンナの話をしていくんだもの。気になるわよね。家に彼女を連れてきてくれなかったし、彼の家に招待もしてくれなかったから、どんな子か頭の中で想像が膨らむ一方だったわ。遊びに行くにも遊びに来てもらうにも、貴族令嬢って色々あるみたいなのよね。

 ねぇ!これ、見てほしいの!可愛いでしょ?自分の髪の色に合わせて、ドレスの色は白に近い黄色にしてみました!上半身は総レースのノースリーブで、下半身はあまり広がらないような感じにしたのよ。可愛い過ぎるのも、くどいでしょ?そのスカートの部分を色は上半身と同じでも光沢のある生地にしたの。同じ生地で作った薔薇を波のような形に、裾にぐるりと不規則に付けてみたわ!

 もう!最高だわ!!


 そして、馬車に揺られて小一時間よ。フォーサイス家の屋敷より半端なく広い敷地と大きな屋敷の前に、様々な装飾がされた馬車が並んでいるわ。

 やっと私たちの番となり、玄関の前で馬車から下りて屋敷の中へ入っていくわ。思わずキョロキョロしちゃうけど、いつもより一段とキラキラした父のハンフレイパパと母のマリアンヌママに連れられて、兄のカーティスと一緒にそのまま会場に入るわ。

 入って直ぐ、きらびやかなで華やかな装いの夫人や令嬢たちが、目に飛び込んできたわ。男性と連れ立っているのだけど、女性たちの気合いの入れ方が違うので、男性は彼女らより落ち着いて見えるわ。

 そして、屋敷の装飾よ。キラキラ輝くシャンデリアに品の良い壁紙も何もかも、フォーサイス家のワンランク上どころではないわ。あ、王宮は芸術級でもっと凄いけど・・・。


「みぇぎゃ、みぇぎゃ、みぇぎゃ・・・」(目が、目が、目が・・・)


「どうしたの?ルーナ」


 私の様子がおかしいことに気付いたカーティスが、聞いてくるわ。ルーナは私の愛称よ。


「・・・まびゅしーにょ、てぃきゃてぃきゃすーにょ」(眩しいの、チカチカするの)


「あははは~ぼくもだよ。すごいよね」


 そう言って瞬きをすると、カーティスが笑うわ。


「大丈夫かい?はぐれないようにね」


「ルーナは、私の裾に掴まっておいてね」


「はーい」


「あーい」


 ハンフレイパパとマリアンヌママが心配そうに言うので、それに返事をしてマリアンヌママの裾をぎゅっと握るわ。

 上級貴族から順に、公爵家に挨拶をしていくみたいなの。暗黙の了解なのか、列を作るわけでもなく、前の人たちが挨拶を終りそうになるのを察して、次の人たちが公爵のところに向かい、終わったタイミングで前に立ち挨拶をするのよ。無駄の無い流れが自然と出来ていたわ。

 次々と挨拶が終わる中、フォーサイス家の順番となったわ。私に合わせてゆっくりと移動してくれるけど、幼い私の歩幅はなんともならず、トコトコトコと小走りになってしまうので、見かねたハンフレイパパが抱き上げてくれて、公爵家の方々の前に着くと下ろしてくれたわ。


「フォーサイス侯爵に侯爵夫人、ジュリアンナの誕生日パーティーの招待を、受けていただき嬉しく思う。カーティス卿とアリアルーナ侯爵令嬢も来てくれて、ありがとう」


「皆さん、ありがとう存じますわ。ジュリアンナも、楽しみにしておりましたの」


「きてくれてありがとうございますっ」


「あーぎゃちょうぎょにゃいみゃしゅ」(ありがとうございます)


 気さくに声をかけてくれる公爵と夫人。エドワードはガチガチに、ジュリアンナは頑張って、挨拶をしているわ。この世界の言葉って発音難しいのかしら?ジュリアンナも私も2才になるのに、舌足らずが酷すぎるわ。日本だとどうだったかしら?


「ご招待いただき、ありがとうございます。ベネディクト公爵、公爵夫人。ジュリアンナ公爵令嬢、お誕生日おめでとうございます」


「お招きいただき、ありがとう存じますわ。アリアルーナも楽しみにしておりましたわ。ジュリアンナ公爵令嬢、おめでとうございます」


「おまねきいただき、ありがとうございます。ジュリアンナ嬢、おめでとうございます」


「おみゃにぇい、ありゃぎゃちょーぎょにゃいみゃしゅ。にゅりあんにゃたま、おめめにょうぎょじゃいましゅ」(おまねき、ありがとうございます。ジュリアンナ様、おめでとうございます)


 公爵たちが気さくに声をかけてくれるので、あまり堅苦しくなく返したわ。


「にゅりあんにゃたま。おんにょ、いちょにあしょみみゃしょー」(ジュリアンナさま。今度、一緒に遊びましょう)


 近付いて私がそう言うと、ジュリアンナはぷんっと顔を背けて、隣の公爵夫人の後ろに隠れたの。


 あらーっ!?どうしてかしら?なんか私、感じ悪かったかしら?!でも、ジュリアンナ、とても可愛いわっ!!あの目、見たかしら!?くりくり猫目で、きゅるるスカイブルーの瞳で、エドワードと同じ色のはずなのに明るく見えるのよ!

 髪は、青みがかったプラチナブロンドで美しいわ~公爵の水色の髪と公爵夫人のプラチナブロンドの髪が合わさった愛の結晶よね。

 ん?んん?これ何かしら?ジュリアンナの肩に黒っぽい変なモノがいるわ・・・虫かしら?でも、モヤっぽく見えるのよね。なにか分からないけど、嫌な感じがするわ。こんなに、はっきりくっきりしていて、大人の親指くらいの大きさなのに、誰も気付かないのかしら?


 ドレスの後ろに隠れたまま、公爵夫人に窘められているジュリアンナの脇に回り込むと、それを払いのけ床に落とすと、勢い良く踏みつけグリグリとしてやったわ。


 良くないモノだと思うから、さようならだわ。折角の可愛いジュリアンナの誕生日パーティーで、こんなの付けたままなんて嫌だものね。ドレスは大丈夫かしら?キレイになる魔法をかけておきましょう。魔法発動で光らないようにしないとならないわね。


「・・・どうしたのかしら、アリアルーナ侯爵令嬢?」


 話に夢中になっている公爵と両親、カーティスとエドワードは気付いていないみたいだけど、突然の私の行動に、公爵夫人は目をパチパチさせ驚いたようだわ。しかし、それを表に出さず隠して、穏やかな感じで私に聞いてくるの。ジュリアンナは、公爵夫人と一緒に目をパチパチさせていたが、今は首を傾げているわ。


「むちぎゃ、いちゃにょよ」(虫が、いたのよ)


「虫かしら?」


「しょうにゃにょ」(そうなの)


コクリと頷いたわ。


「まぁ、ジュリアンナの肩に?アリアルーナ侯爵令嬢、ありがとう存じますわ」


 公爵夫人が、満面の笑みを浮かべて私の頭を撫でてくれたの。


「あーぎゃちょう」(ありがとう)


 先の態度が嘘のように変わり、ジュリアンナは頬を染めて私にお礼を言うのよ。


 かっ・・・可愛いわ!!


「どうしたんだ?」


 私たちの様子に気付いた公爵が、公爵夫人に声をかけるのよ。


「ジュリアンナの肩に虫がいたらしく、アリアルーナ侯爵令嬢がそれを取ってくださったの」


「そうなのか?ありがとう、アリアルーナ侯爵令嬢」


「じょういちゃしぃましぃてぇ」(どういたしまして)


「ルーナ、偉いな」


「あら、虫を?凄いわね」


 ハンフレイパパとマリアンヌママが、頭を撫でてくれるわ。うふふ、良いことして誉められるなんて嬉しいわ。


「すごいね、ルーナ」


「ありがとう、アリアルーナ。そのむしはどこ?」


 カーティスが目をキラキラさせて言い、エドワードは虫が気になるらしいの。男の子ね。

 虫を踏みつけていた足をどけると、そこには黒っぽい変なモヤっぽいモノがまだあったわ。


「あれ?いないよ」


 エドワードがそう言うの。このモヤっぽいの見えないのかしら?


「ほんとうだね。にげたのかな?」


 カーティスにも見えないみたいだわ。


「そうね、逃げたのかしら・・・」


「逃げ足が早かったのね」


 公爵夫人とマリアンヌママもそう言うの。変ね・・・。

 ここにあるのに、私にしか見えないのかしら?


「「・・・」」


 公爵は黙ったまま目を細めていて、ハンフレイパパも黙ったままだけど、目を見開いているわ。


「ルーナ、これを消せるかい?」


「うん」


 私にだけ聞こえるように、ハンフレイが聞いてくるので素直に頷いたわ。


 モヤモヤさん、消えてね。そう願うと、キラキラと消えていったわ。

 その光景を見ていた男性二人は、驚いたみたうで目を見開いたの。


「公爵、これはご内密に」


「あぁ・・・」


 そんな二人のやり取りを、その二人以外のベネディクト公爵家とフォーサイス伯爵家の者たちは不思議そうに見ていたわ。




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