第2話『バイトさせてください!』

 家出した俺はいい香りがするふかふかなベッドで女子大生と寝ていた。


「あの、なんで同じベットなんですかね」

「仕方ないじゃん、ベット一つしかないんだもん」

「じゃあ俺ソファーで寝ますよ?」

「え? もしかして緊張してるの?」

「そ、そんなんじゃないですよ」


 彼女はクスクスと笑い俺をからかってくる。


「そーいえばまだ自己紹介してなかったね。私は小田切日奈おだぎりひなっていいます!君は?」

「僕は森春汰もりはるた、高校2年です」

「ほうほう、ハルくんかぁ」

「もうあだ名ですか?」

「いや?」

「嫌ではないですけど……」

「じゃあ、私のことは日奈でいいよ」


 日奈さんはそう言うとすぐに眠ってしまった。

 なんて無防備なんだ……






 はぁ、全く眠れなかった……。

 日奈さんは心地よそうにぐっすりと眠っているのに俺だけ意識して。


「うーん……。ハルくんおはようぉ」

「おはようございます」

「ハルくん目の下のクマどうしたの?」

「あぁ、お腹痛くてあんまり寝れなかったからですかね」


 日奈さんを意識しすぎて寝れなかったなんて言えない。

 からかわれそうだし。


「じゃあ私仕事行ってくるから自由にしてて」

「え?日奈さん大学生ですよね?」

「うん、そーだよ。うちの大学は働きながら学校にも行けるんだ〜」


 大学かぁ、俺には縁のない所だな。


「じゃあいってきます!」

「いってらっしゃい」






 暇だな〜。

 平日の昼って面白い番組もやってないしニュースばかりで退屈。

 日奈さんの持っている少女漫画も見飽きてしまい俺はカーペットの上に寝転んで時間が経つのをただ待つばかり。


 早く日奈さん帰ってこないかな〜


 ガチャ、


「だだいま〜」

「え、日奈さんどうしたの?まだ三時だけど」

「あー。私の仕事いつも三時までなの」


 昼の三時に帰れる仕事ってなんだろう……


「ハルくんにお土産があります」

「なんですか?」

「私のお店のメロンパンでーす!」


 日奈さんの仕事ってパン屋なんだ!


「どう?美味しい?」

「はい!今まで食べてきたやつの中で一番美味しいです」

「大げさだなぁ」

「いや、ホントですって!」


 日奈さんは年齢としが違う俺にも優しく接してくれる女子大生じょしだいせいだった。






「日奈さん、バイトさせてください!」

「いいよ〜」

「え? いいんですか?」

「うん。だって家にずっと至ってやることないだろうし、高校生といえばバイトでしょ!」

「そですかね」

「なら私の行ってるお店で働きなよ!皆優しいしいい人ばっかりだから」


 こうして俺は日奈さんがいるパン屋で働くことになった。


「春汰くんレジおねがい!」

「はい!」


 仕事場では『春汰くん』なんですね。


 レジでの会計が終わり後ろを向くとムキムキで優しい店長が俺の肩に手を置いて言った。


「春汰君。真面目に働いてくれてありがとう、君みたいな子の上司で俺は嬉しいよ」


 店長は半泣きで俺にハグした。

 力が強すぎて苦しかったけど店長の温かみが伝わった。


 そんなこんなで仕事をしていると、


 チャリンチャリン


「え?母さん……」


 店に入って来たのは俺の実の母だった。




















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