第15話 アホな兄ちゃん、アホじゃない兄ちゃん、どっちも良き2

 さて、どうしたものか。キャッチャーの指示を無視してストレートに伝えるか、それとも明言を避けて誤魔化すか。


「もしかして……〝おしっこ〟漏れちゃいそうなのか?」


 なんだろ、薬の影響かもしれないけど、兄ちゃんの知能指数が著しく低下してる。いや、それでもカッコいんだけどね?


 普段の兄ちゃん相手じゃ厳しいけど……今の兄ちゃんなら簡単に騙せそう。


「なんなら俺も一緒に付いていこうか? なあに、心配するな。可愛い妹の強制油断時間おしっこタイムを守るだけで、やましいことなんてなにも考えちゃいない――だから〝音姫〟を使わなくてもいんだぞ?」


「だ、大丈夫だよ兄ちゃん。お花摘みに行くわけじゃないから」


「……そうか」


 どうして音姫を使わなくていいなんて口にしたのか、それについはさっぱりわからなかったけど、兄ちゃんの誤解を解くことには成功した。


「それじゃあなんで?」


「それは…………」


 弁解の言葉はすでに頭の中に浮かんでいる。にも関わらず口を閉じたのには理由がある。


「それは? なんですのん?」


 首を右に傾けたかと思えば今度は左に。兄ちゃんはオーバーな表現で続きを促してきた。なんというか、やっぱりどこかアホっぽい。


 今の兄ちゃんなら確実に騙せる。けどそれは未来を保証するものじゃない。昨日……正確に言えば今日なんだけど紛らわしいから昨日ということで――昨日がそうだったように、〝元に戻ったら〟バレてしまう可能性が出てくる。


 だがしかし、致命的なミスというわけじゃない。この程度の嘘ならバレたところでほぼノーリスク、ちょっと印象が悪くなるくらいでウチの株が大暴落することはないはず。


 理由はその逆、得られるリターンもほぼないからだ。この場をしのげる、ただそれだけ。


 ただそれだけのことで、噓をつく女というイメージを少しでも持たれるくらいなら、いっそ正直に言ったほうがいい。そう思い直したのだ。


 ……薬に頼っちゃってる時点で誠実さもなにもないんだけどね。


 それにきっと、アホじゃない兄ちゃんは気付いている。薬の存在とまではいかなくても、ウチが関係していることには絶対に。


 ま、仮にアホじゃない兄ちゃんが薬の存在に辿り着いて問い詰めてきたとしても、ウチには〝魔法の言葉〟があるから平気だけど。


「なんですなんですなんですのん?」


 あ、ヤバい、アホの兄ちゃんもさすがに怪しみだしてきた。

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